小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は6月20日発売の『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)。
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は6月20日発売の『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)。

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 レイプ被害を告発した女性の会見、著名人の淫行事件。「レイプされるような状況を作った女性が悪い」「素行の悪い子供にはめられたのでは」などの声があがります。性暴力や淫行という行為自体が責められるべきなのに。

「男の欲望はどうしようもないものなんだから、刺激しないように女性が気をつけるのは当然のこと。そうと知っていて刺激するのは、男の欲望を利用しようとしているのではないか?」という理屈でしょうか。「男は精子が次々と作られるから、性欲が抑えられないものなんだよ」もよく聞きますね。そう主張するのは男性とは限りません。女性でも、傷ついた女性を自業自得だと非難する人はいます。

 この「男はそういうしょーもない生き物」って本当でしょうか。欲望を自制できる男性も存在します。少なくとも、葛藤に苦しむぐらいの知性を持った人はたくさんいます。他人の身体は自分の性欲の発散のためにあるのではないという当たり前のことがわかっていれば、「男なんだからしょうがないよねー」が通用しないことぐらいわかるはず。自制するのが難しいなら、カウンセリングを受けて性衝動をコントロールできない理由を明らかにする必要があるでしょう。

 私の知人は、初めての出産後に夫に性病をうつされました。夫は「妻を赤ちゃんにとられた自分がかわいそうだったから、自暴自棄になって安い女性を買った」と言い訳したそうです。

 彼女は深く傷つき、精神のバランスを崩しました。自分の夫が、劣悪な環境で働く女性を人間扱いせず、性具として買った冷酷な男だと知って絶望したのです。

 性暴力は魂の殺人と言われるように、性は人の生そのものです。欲望をどう扱うかは、自他の魂をどう扱うかということに他なりません。「だって男だから」は暴力なのです。私は息子たちにも繰り返し、そう伝えています。

AERA 2017年6月26日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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