自民党に関する47都道府県知事アンケート(AERA 2017年6月26日号より)
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自民党に関する47都道府県知事アンケート(AERA 2017年6月26日号より)

 委員会採決省略の強行採決、実在した「怪文書」……。「安倍一強」のもと、自民党はなぜここまで傲慢になってしまったのか。その源流を「政・官の関係」「派閥弱体化」「小選挙区制」の現場で考察し、いかにして現在の一強体制が作られていったかを明らかにする。AERA 2017年6月26日号では自民党を大特集。今回は、米軍基地問題で政府と対立が続く沖縄にフォーカスした。

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 昨年12月、米軍機のオスプレイが、沖縄県名護市の浅瀬に墜落した。6日後。県民の反発が高まる中、米軍は飛行再開を通告、日本政府は即座に「理解」を示した。

 このとき、マスコミのカメラの前で激しい怒りをぶちまけたのは、自民党沖縄県連の照屋守之会長だった。

「冗談じゃない。向こう(米国)の言いなりで許可できるか。県民の理解を得るのが先だ」

 オスプレイ飛行再開を説明する沖縄防衛局長を前に、ソファの肘掛けをたたき、声を荒らげる様子は照屋会長の「素の苛立ち」を体現していた。

 無理もない。自民党県連は米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)返還に伴う名護市辺野古への新基地建設を容認し、地元で安倍政権を支える立場だ。

 政権が米軍に従属的な態度を示したと映れば、県連は沖縄で窮地に追い込まれる。

 昨夏の参院選では現職の沖縄担当相で県連会長だった島尻安伊子氏が新人候補に敗れ、自民党の衆参の沖縄選挙区での議席はゼロになった。

 安倍晋三首相が長期政権を謳歌する中、沖縄の自民党は新基地が焦点の選挙で苦杯をなめてきた。

 一方、自民党県連幹事長も務めた翁長雄志知事は「オール沖縄」を率いて新基地建設に反対し、政府と対峙する構図が続く。なぜこうなったのか。

●老練な政治家の不在

 在日米軍専用施設の約7割が集中し、日米安保の核を担う沖縄。かつて自民党は初代沖縄開発庁長官の山中貞則氏をはじめ、橋本龍太郎首相、小渕恵三首相、官房長官経験者の梶山静六氏や野中広務氏といった有力政治家が、戦中戦後の沖縄に対する「贖罪の精神」を抱え、ライフワークとして沖縄と向き合った。

 一方、「本土」と異なる歴史を歩んだ沖縄では、基地や歴史認識問題をめぐって超党派で対応する例は珍しくなかった。その一つ、オスプレイ配備反対を掲げ12年9月の県民大会で集結した超党派勢力は、配備後も維持された。

 この中心にいたのが当時那覇市長の翁長知事だ。

 13年1月、県内全市町村長と議長らが参加する要請団が東京・銀座をデモ行進した際、旭日旗を掲げる団体から「売国奴」「日本から出ていけ」などと罵声を浴びた。

 この体験は参加者に衝撃を与え、沖縄内部の結束を固める方向に作用する。保守・革新といったイデオロギーで県民が分断されるのではなく、アイデンティティーや自己決定権の確立を標榜することで、民意の結集を図り、「本土」の壁に対抗しようとする機運をより一層盛り上げた。

 一方、世代交代を経て、沖縄を「包摂」する老練な政治家が不在の中、安倍政権は党内締め付けにより自民党沖縄県連や国会議員の「切り崩し」を敢行。仲井真弘多前知事から新基地建設に伴う埋め立て承認を得たものの、これが県民の怒りの火に油を注ぐ形になり、自民党と袂を分かった翁長知事の14年11月の知事選大勝につながった。

 県連は今年4月、「辺野古移設を含むあらゆる可能性を追求する」としていた政策を、辺野古移設の「容認」明記に切り替えた。背景には、昨年末の辺野古の埋め立て承認取り消しをめぐる最高裁判決で国側が県に勝訴し、「潮目は変わった」(自民党関係者)との見方がある。

 県は来月にも工事差し止めを求める訴訟を提起。再び政府との法廷闘争が始まる。

(編集部/山口亮子、渡辺豪)

AERA 2017年6月26日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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