●真の友は犬か

 犬だけでなく、猫も遺伝に加え家畜化によってより積極的なコミュニケーションをとる性質を備えているのだとしたら、なぜ犬の家畜化のほうが先に進んだのか。前出の今野さんはその理由をこう考察している。

「犬は人をかみ殺せるんです。だから、なるべく早く家畜化して人に懐くようにしないと、危険で仲良く暮らせなかったのではないでしょうか」

 そしてこう続ける。

「ただ、家畜化されてまで人と一緒にいてくれるのだから、犬こそが人の真の友達なのかもしれません」

「人類最良の友は犬」説に、愛猫家は疑義を唱えるかもしれない。猫は繁殖のコントロールを免れ、人によって家畜化されなかったにもかかわらず、1万年にもわたって、私たちと仲良く暮らしてきたという厳然とした事実がある。

「家畜化されなくても、猫は友達でいてくれている。これこそが、猫が人類の真の友達であるということだと思うんです」

 と前出の齋藤さんは考えている。

 家畜化が進まなかった理由の一つには、猫の肉食習性がある。犬と違い、人から餌をもらうだけでは栄養状態が維持できず、野生で狩りをする必要があったためだと考えられている。人から完全な餌付けをされない。それが人のそばにいながら自由をすべて奪われずに共生できた猫の在りようだ。

 だが、最近ではペットフードが充実してきたため、その猫の「独立性」は危うい。現代は美味な餌を人から生きていくに十分過ぎるほど与えてもらえる。飼い猫のほとんどにとって、ネズミ捕りは生存のためではなく、娯楽ともいわれる。

 1万年前から人につかず離れず距離感を保ちながら野性を残してきた猫。その存在の奇跡は今後、進む家畜化で変化していくと見られている。その時には、犬と猫、どちらが「最良の伴侶」の座に就いているのだろうか。(編集部・長倉克枝)