“日本のメタル・ゴッド”に出合っていなければ……(※写真はイメージ)
“日本のメタル・ゴッド”に出合っていなければ……(※写真はイメージ)

 子どもの頃読んで忘れられない本、学生時代に影響を受けた本、社会人として共鳴した本……。本との出会い・つきあい方は人それぞれ。各界で活躍する方々に、自身の人生の読書遍歴を振り返っていただくAERAの「読書days」。今回はライターの武田砂鉄さんです。

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“日本のメタル・ゴッド”こと伊藤政則さんの文章に出合っていなければ、今こういう仕事をしていないと思う。あらゆるヘヴィ・メタルを先駆的に啓蒙する、どこまでも暑苦しいライナーノーツは、言葉で音楽を捕まえる醍醐味を教えてくれた。

 たとえば伊藤政則「ヘヴィ・メタルの逆襲」のプロローグはこう始まる。「獣が獰猛であろうとするのは、生き延びるための本能と、戦う本能が交差する『牙の掟』にしがみついているからである」。重厚な音楽を形容する筆致にすっかり触発され、余った年賀状を使って、政則さんのラジオに檄文を投稿し続けた。読まれた放送回のカセットテープは当然大切にとってある。

 情報整理に甘んじる紹介文は皆無。明確な表現でバンドの正体を突き刺しにかかる原稿に憧れた。その偏愛の注ぎ方を模倣しつつメタル雑誌に投稿するようになった。レビューが初めて掲載されたのが大学1年の春。本屋で自分の名前を見た時の嬉しさを今でも思い出す。

武田砂鉄(たけだ・さてつ)
1982年生まれ。ライター。著書に『紋切型社会』『芸能人寛容論』ほか

AERA 2017年6月19日