●税制上のメリットも まずは遺言書の作成を

 税制上のメリットもあるため、節税対策として関心を示す人もいる。

 日本財団によると、遺贈とは、遺言書によって故人の遺産を寄付することで、相続税の対象にはならない。一方で遺言書はないものの、相続人が故人の思いを引き継ぎ遺産を寄付することを、遺贈とは区別して、「遺産の寄付」と呼ぶ。この場合でも特定の公益法人に寄付した分は相続税の課税対象から外れる。ただし、故人の死亡から相続税の申告期限である10カ月以内に寄付した場合に限られる。10カ月が過ぎた後でも寄付自体は自由にできるが、税の優遇は受けられない。前出の女性はこのケースにあたる。

 こうしたことからも、自分の遺産を遺贈したい場合に最も重要となるのが、遺言書の作成だ。自身の遺産を誰にどれだけ配分するかを記した遺言書は、決まりを守って書くことで、法的効力を持つ。逆に遺言書がない場合、遺産を受けることができるのは、配偶者や子どもといった法定相続人に限られている。そのため、遺言書がなければ、法定相続人ではない人や団体に遺産を贈ることはできないのが現状だ。

 ところが日本では、遺言書が当たり前の欧米のような習慣はない。それだけに日本財団では、遺贈への理解を広げるカギは、遺言書の普及にあると考えている。その取り組みの一環として財団は昨年12月、「いごん」と読める1月5日を「遺言の日」として新たに日本記念日協会に登録した。すでにりそな銀行が「いいいごん」の語呂で登録している11月15日と、近畿弁護士会連合会が「よいいごん」の語呂で登録している4月15日とともに、正式な「遺言の日」となっている。

 記念日認定後に初めて迎えた今年1月5日、遺言書を正しく書くための催しが日本財団で開かれた。用意された席が満席となる約45人が出席し、弁護士や司法書士らの説明を熱心にメモしながら聞いていた。その一人で70代の男性が筆者の取材に語ったことが、まさに時代を反映していた。

「親の遺産をめぐり家族が争うことほど悲しいことはない。親と子がそろって高齢者になるのが珍しくないほど長寿社会になった日本で、どのように死んでいくのかを考えるのは、先に逝く者の最後の務め。遺贈ということも含め、それぞれの立場で死に方を考える時代になった」

AERA 2017年6月19日号