ポリーヌ・ヴェルマールさん(左)とソール・ライター財団創設者のマーギット・アーブさん(撮影/写真部・小原雄輝)
ポリーヌ・ヴェルマールさん(左)とソール・ライター財団創設者のマーギット・アーブさん(撮影/写真部・小原雄輝)

 ニューヨークが生んだ伝説の写真家ソール・ライター。独自の視点でそっと世界を切り取るその生き方に共鳴する人がいま、増えている。

 1946年、ニューヨークで写真を撮り始めたソール・ライター。「ハーパーズ・バザー」など有名ファッション誌で活躍するが、81年に58歳でスタジオを閉じ、表舞台から退く。

 以後、知られざる存在だったソール・ライターが再び脚光を浴びたのは2006年のこと。ドイツの有名な出版社シュタイデルが彼の写真集を発表し、世界中の人々を驚かせた。日本では15年にドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」が公開され話題になった。現在、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで初の個展「写真家 ソール・ライター展」が開催中だ。

 同展の監修者で、08年にパリのアンリ・カルティエ=ブレッソン財団でソール・ライター展を手がけたニューヨーク国際写真センターのアソシエイト・キュレーター、ポリーヌ・ヴェルマールは話す。

「大勢の人が衝撃を受けました。『こんな写真家がどこに隠れていたんだろう!』って」

●浮世絵の影響も

 人々を驚かせたのは主に1950年代に撮影されたカラー写真だ。雪の道を歩く赤い傘を撮った「足跡」。雪の道は画面を大胆に斜めに横切り、赤い傘は右端ギリギリに置かれている。画面の上4分の3がカフェの天蓋で黒く覆われた作品もある。斬新な構図、滲みと憂いのある独特の色彩感覚、叙情性。世界をそっとガラス越しに眺めるような奥ゆかしさ。ヴェルマールは「彼の写真には日本との深いつながりがある」と分析している。

「09年、彼のアパートに行ったときに蔵書を見せてもらったんです。美しい浮世絵の本がたくさんあって、いかに彼が日本の芸術に影響を受けたかがわかりました。彼は歌麿や広重、北斎、俵屋宗達が好きでした」

 さらに人々を惹きつけるのはソール・ライターの生き方だ。あえて名声から距離を置き、13年に89歳で亡くなるまでマンハッタン・イーストサイドにあるアパートと周辺だけで、自分のスタイルで写真を撮り続けた。

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