<出口に直面した際、日銀は毎年数兆円規模の損失が発生すると指摘される。損失が想定外に拡大してしまうと、いよいよ日銀は債務超過に陥る。財政も影響を受ける可能性がある>

●永遠に出られない?

 提言をまとめた日銀出身の小倉将信衆院議員はこう語る。

「緩和が長びくほど将来のリスクは蓄積します。緩和開始の直後ならともかく、4年以上が経過して『時期尚早』は通用しない。総裁が何も語らないと、不安はかえって大きくなる。日銀は出口にさまざまなケースがあることを説明し、市場と丁寧に対話していくべきでしょう」

 4年超に及ぶ金融緩和で、日銀の総資産は5月末時点で500兆円を突破した。日銀のシナリオどおりに物価が上がれば、金利上昇局面で最大で年数兆円の利払い負担などが発生しかねず、財務の悪化を招き、収支も赤字になる恐れがある。黒田総裁は、「具体的なシミュレーションを示せば市場を混乱させる」と議論に立ち入るのも避けてきたが、緩和を続けるほどリスクは膨らむため、市場では不安の声が強まっている。

 みずほ総合研究所が5月に公表した「緊急リポート」は、物価目標の実現が当面は困難なことを前提に、将来の損失が膨らみすぎる前に出口を探るべきではないか、としている。具体的には、2%の物価目標を日銀だけに押しつけるのはやめ、政府の財政政策や成長戦略と一体になって長期的にめざす目標に変える内容だ。同研究所の高田創・チーフエコノミストは
「海外経済の追い風があるうちに出口に向かえないと、永遠に出られなくなるかもしれない」と話す。

 6月15、16日の金融政策決定会合後、黒田総裁は記者会見を開くが、そこでも出口が語られる見込みは薄い。日銀と市場の「すれ違い」は、しばらく解消できそうにない。(朝日新聞経済部・藤田知也)

AERA 2017年6月19日号