●テロで支持拡大も裏目

 保守党は、公的部門の昇給抑制(年率上限1%)を進め、国営医療制度「国民保健サービス(NHS)」の民営化を図るなど、緊縮財政策を徹底してきた。これに対する国民の不満の大きさをメイ首相は読み誤った。NHSの拡充や大学授業料無料化など左派政策で知られるコービン労働党首の人気を逆に押し上げる自責点になった。

 労働党へ投票したキャティ・トンプソンさん(26)は、自身が働くNHSについて、

「財源不足が著しく、フルタイムで働いても自分の医療費すら十分に払えない。1%の昇給抑制は冗談そのもので、物価上昇に対応できない。裕福になるのは上流階級だけで、中流階級以下は切り捨て。緊縮、緊縮で警察官を2万人も削減し、テロに対応できるわけがない。コービン氏に期待するしかなかった」

 3月にロンドンで起きたテロ事件に続き、5月に始まった選挙戦中にもマンチェスターとロンドンで相次いだテロを受け、治安対策が争点に急浮上した。テロ対策の強化を約束するなどして求心力を高めようとしたメイ首相だが、自身が内相時代に警察官を削減したことが批判され、これまた裏目に出た。

「どの党にもテロ対策は難題だけに、テロ自体が投票結果を左右したとは思わない。むしろ、テロを理由にして支持を訴えたメイ首相の姿勢に多くの人はいらついた」。福岡市で英語教師をするエミリー・トンプソンさん(28)は、そう分析する。

「だから労働党のコービン党首には期待したい。私たちの年代は、みなそう思っている」

 メイ首相の去就を含め、混乱は続きそうだ。(編集部・山本大輔)

AERA 2017年6月19日号