(左)ステファニー・ディ・ジュースト/1978年生まれ。11歳の息子がいる。本作で監督デビュー。カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門で正式上映され、セザール賞の第1回監督賞にもノミネート/(右)ソーコ/1985年、フランス・ボルドー生まれ。ミュージシャンとしても活躍し、2014年、全米ビルボードのシングルチャートで9位を記録。16年にはマドンナとのコラボが話題に(撮影/伊ケ崎忍)
(左)ステファニー・ディ・ジュースト/1978年生まれ。11歳の息子がいる。本作で監督デビュー。カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門で正式上映され、セザール賞の第1回監督賞にもノミネート/(右)ソーコ/1985年、フランス・ボルドー生まれ。ミュージシャンとしても活躍し、2014年、全米ビルボードのシングルチャートで9位を記録。16年にはマドンナとのコラボが話題に(撮影/伊ケ崎忍)

 ロートレックやコクトーのミューズとなった伝説のダンサー、ロイ・フラー。イサドラ・ダンカンと同時代を生きた彼女の苦悩とは。

“モダンダンスの創始者”の一人とされるロイ・フラー。だがその名前を知る人は少ない。映画「ザ・ダンサー」監督のステファニー・ディ・ジューストが彼女を知ったのも偶然だった。

「7年前、アートの本をめくっていたとき、シルクの巨大なベールに包まれた女性の写真を見つけたの。『一体、誰?』と興味を持って、調べ始めた」

 19世紀末、ニューヨークで女優を目指していたロイ・フラーは、偶然舞台で踊ったダンスで喝采を浴びる。それは大きな布をまとい、両手を高く掲げてクルクルと回り続けるダンス。ロイを演じたソーコは振り返る。

●体力勝負のダンス

「とても体力のいるダンスよ。撮影前の1カ月間、ロイが実際にやったように1日7時間、トレーニングをしたの。暗闇のなか、高さ3メートルのステージの上でグルグルと回るのは、吐き気がするほど大変だったわ!」

 偶然のダンスに天啓を受けたロイは照明や舞台装置を自ら設計し、パリ・オペラ座での公演を成功させる。そんな彼女の前に現れたのが、まだ無名のイサドラ・ダンカンだ。二人の関係も史実に基づくと監督は言う。

「ロイは伝記に『私の人生には悲劇が2回訪れた』と書いている。一つは父の死で、もう一つはイサドラ・ダンカンとの出会いだったの。ロイは自分自身を表現するために山のような小道具が必要だったけれど、イサドラは舞台の上に身をさらけ出すだけで、すべてを表現できたから」

 血の滲むような努力型のロイ。「そこにいるだけ」で人々を魅了するイサドラ。不公平さ、嫉妬、羨望……女の複雑な感情がこまやかに描かれ、心に刺さる。

●女の「不公平さ」が沁みる

 しかもイサドラ・ダンカンを演じるのはジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘、リリー=ローズ・デップだ。ソーコは彼女の印象をこう話す。

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