「本当にやったヤツがいたんだ」

 以来、森本さんにとって龍馬は生きるための柱であり根っことなった。大学を卒業すると自然環境を保護するNGOに入り、広報、会員拡大、ファンドレイジング(資金調達)を担当。NGOに20年近く勤めた後、PR会社を経て、2014年に地域力創発を仲間と一緒に立ち上げた。誰かが発するSOSをスタートに、その解決策をつくり出すことに取り組む。

 活動の一つが、地域活性化だ。

 ローカル鉄道会社と酒蔵を結びつけ、鉄道を応援する酒を造ってもらい地元を盛り上げる。目指すのは、地域の若者が30年間、安心して働いて暮らせる状況をつくることだ。

 今年3月、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症していた森本さんの高校・大学の後輩が、がんを併発して亡くなった。後輩の発症を機に、難病支援にも乗り出した。

 地域活性化も難病支援も、課題は多い。しかし、こう話す。

「壁があっても龍馬だったらくじけないと思います。ハッピーで、笑顔で生きていける社会をつくりたい」

●龍馬に恩返しを

 多くの人の指針となり、生き方を教えてくれる龍馬。そんな龍馬に恩返しがしたいと言うのは吉冨慎作さん(38)だ。龍馬好きが高じ、高知に移住した猛者でもある。

 山口県下関市の出身。中学生の時にTVアニメの「お~い!竜馬」を見て龍馬に魅了された。

 福岡県内の広告会社に勤めていた12年冬、現在働くNPO「土佐山アカデミー」が「事務局長」を募集しているのをネットで見つけた。すぐ履歴書を書き、採用され、13年2月に高知に移住した。結婚したばかりの妻に移住の話を伝えたのは、内定後だったと笑う。

 地域振興を手掛ける同NPOが事務局を置くのは、高知市北部の山深い土佐山地区。吉冨さんは事務局長として、アカデミーの運営を取り仕切る。

「地域の課題を学びに変えることにこだわっています」

 以前、地域に唯一あったスーパーが撤退。どうすればスーパーを復活させ、ビジネスとして儲けさせる仕組みをつくることができるか。

 吉冨さんたちがその課題をある企業の研修テーマにし、アイデアを出してもらいスーパーは今も続いている。企業は地域の課題を教材として学ぶことができ、アカデミーには研修費が入った。

「課題をプラスに変え、お互いにメリットが出る仕組みです」

 いま38歳。龍馬が亡くなった33歳はとうに過ぎた。これまで「龍馬、龍馬」と言ってきたが、結局、自分は龍馬にはなれなかった。しかし逆に今は、自分をここまで導いてくれた龍馬に恩を返したいと話す。

「過疎化や高齢化など、高知には課題がいっぱいあります。その課題と向き合い解決し、高知を盛り上げていきたい。それが、僕の龍馬への恩返しです」

 新時代に息づく、龍馬の魂を感じた。(編集部・野村昌二)

AERA 2017年6月12日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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