サミットでトランプ氏が繰り返したのは…(※イメージ写真)
サミットでトランプ氏が繰り返したのは…(※イメージ写真)

 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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 5月26、27日に、G7サミットがイタリアで開催された。その首脳宣言に関する新聞記事の中に、次のぎょっとする文言を発見した。「『互恵的(reciprocal)な貿易が重要だ』。サミットでトランプ氏が繰り返したのは『互恵的』」(2017年5月29日付日本経済新聞朝刊

 これは違う。reciprocal(レシプローカル)は「相互的」を指す言葉だ。確かに、辞書には「互恵」も載ってはいる。だが、通商関係に臨む姿勢としては、reciprocityが意味するところは相互主義と解釈すべきだ。

 相互と互恵は大いに違う。相互主義は、交渉事において「絶対に相手より損をしない」という姿勢をいう。その限りでは、右記の新聞記事でトランプ氏が「『米国が低関税ならあなた方も引き下げるべきだ。あなた方が30%の関税を課すなら、米国も30%に引き上げる』と主張」と書いているのは納得だ。これぞ、相互主義だ。「目には目を。歯には歯を」の原則なのである。

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浜矩子

浜矩子

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

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