湯浅政明(ゆあさ・まさあき)/1965年生まれ。九州産業大学芸術学部卒業。初監督映画「マインド・ゲーム」(2004年)で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞(撮影/伊ケ崎忍)
湯浅政明(ゆあさ・まさあき)/1965年生まれ。九州産業大学芸術学部卒業。初監督映画「マインド・ゲーム」(2004年)で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞(撮影/伊ケ崎忍)

 疾走感あふれるアニメ作品の鬼才・湯浅政明監督。独自のアニメ制作が話題だ。「フラッシュ」を活用して、制作現場に新風を吹き込んでいる。

 4月7日公開の長編アニメ「夜は短し歩けよ乙女」が大ヒットを続けている。原作は森見登美彦の同名小説。監督はテレビアニメ「クレヨンしんちゃん」の作画監督としても知られる湯浅政明。長編アニメ制作には年単位の時間がかかるのが普通だが、5月19日にはもう一作、湯浅が監督した「夜明け告げるルーのうた」が公開された。

 湯浅にとって「ルー」は初のオリジナル長編だ。こんな思いを込めた。

「本当に思っていることでも、ものを言いにくい雰囲気がいまの社会にはある。もっと素直に言えばいいし、周りの人ももっと寛容になればいいのに」

●鉛筆で描くよりきれい

 もう一つ、この作品で試したことがある。全編をアドビシステムズのアニメ制作ソフト「フラッシュ」で作ることだ。フラッシュはウェブでの動画や広告の制作では一般的。最近は短編アニメにも使われるが、長編をすべて作るのは珍しい。

「アニメも4Kなど高解像度への対応が求められている。フラッシュで作った画像は拡大したり変形させたりしても荒れません。鉛筆で描くより滑らかできれいな線の絵が描けます」

 7、8年前、仏の会社のフラッシュアニメを初めて見た。

「これはきれい。劇場だともっときれいに感じるのでは」

 と、この会社でフラッシュの技術を学んだ。2013年設立の自身の会社「サイエンスSARU」ではフラッシュをメインにアニメを制作。これまでに松本大洋原作のテレビアニメ「ピンポン」などが話題を集めた。

 フラッシュ導入の副産物は、制作プロセスが効率化され、現場が「ホワイト」になったことだ。アニメ制作現場は深夜まで続く長時間労働と低賃金で「ブラック」と言われるが、SARUではほとんどのスタッフが定時退社で土日もきちんと休む。

 どういうことか。

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