その意識には、ハッとさせられる。それは「レコードなら何でもいい」ではなく「レコードで聴きたい」と感じさせる作品作りにもつながる発想だし、クオリティーの高い作品が世に出ることがレコードの人気を定着させることにもなるはずだという問いかけでもある。

●技術を後継世代にも

 アナログレコードのマスタリングとカッティングを担当するエンジニアとして40年以上、日本のレコード業界に関わってきた名匠、小鐵(こてつ)徹さん(JVCマスタリングセンター)は、現在の状況をどう見ているのだろうか。彼がアナログレコードで作り上げてきた“小鐵サウンド”は、サザンオールスターズ、スピッツ、ザ・クロマニヨンズなど日本屈指のミュージシャンから絶大な信頼を得ているし、今も小鐵さんのもとに多くの仕事の依頼が届くという。

「(依頼が)多くなってきたと思ったのは2年くらい前ですかね。近年にも何回かブームの気配はあったんですが、長続きしないで消えていった。でも、今回は続きそうだなとも思ってるんです」(小鐵さん)

 小鐵さんがこの業界に入った当時、社内には9人のカッティングエンジニアがいたというが、今は小鐵さんひとりだけだ。今もさまざまな要請に応えるべく、最新のサウンドを研究することも惜しまない。マスタリングの極意について「音楽もファッションとおなじで、時代に合ったかっこよさが一番大事」だと小鐵さんはたとえた。そして、その技術を後継世代に伝えることを考え始めている。

「ブームだから若い人を育てろと急に言われても困りますが、そろそろ始めないといけません」(小鐵さん)

●曲を飛ばさず聴く

 最後に話を聞いたのは、19歳のシンガー・ソングライター、シンリズムさん。若くして1970年代や80年代のロックやポップスに関心を持つ彼が、先ごろ発売したセカンドアルバム「Have Fun」(フェイス・ミュージック)の制作にあたっての興味深いエピソードを語ってくれた。

「レッド・ツェッペリンやフリートウッド・マックをあらためてレコードで聴いてみたんです。そうすることで、それまでにない発見がありました。一番は『楽曲を飛ばさない』ということです。レコードでしっかり聴くことによって、CDでは地味だと思って飛ばしてた曲が、実はその曲によって次の曲が生きるものだったと発見したんです」

 つい最近も同年代のレコードマニアの友人と、アメリカのマスタリングエンジニア、ボブ・ラドウィックについての話で盛り上がったと彼はうれしそうに語った。新しい世代のリスナーとしても、同時に作品の作り手としても、彼らがつなぐレコードの未来があると感じた。

(ライター・松永良平)

AERA 2017年5月29日号