大規模修繕には、前段階があった。売り主による新築から10年目の「瑕疵担保」である。法律で新築住宅の売り主は、引き渡しから10年間にわたって「構造耐力上主要な部分等」で生じた瑕疵を直す義務を負っている。12年、売り主の大手不動産会社は改修専門の設計事務所を起用し、建物を徹底的に調査。外壁タイルの浮きや地下の漏水などを見つけたら、即座に補修した。費用は売り主の負担だった。

 この経験がベースとなって翌13年秋、管理組合に大規模修繕委員会が立ち上げられ、橋本氏が担当理事に就いた。大規模修繕は、基本設計→実施設計→施工者の選定→着工→竣工のプロセスを踏む。重要なのは事業を進める体制をどう組むかだ。

 鍵は元施工の大手ゼネコンを引き込めるかどうかだった。千差万別のタワーマンションの建築を最もよく知っているのは建てた本人だ。当初、大手ゼネコンは利幅の薄い大規模修繕への参画を渋ったが、管理組合が交渉を重ね、腰を上げた。

 橋本氏は、元施工が加わる意義をこう語る。

「やはり住民の声が大きかった。建物が100年、200年と立ち続けるなかで、元施工が外れると責任の所在が不明確になる。費用が2割高くても、最後まで面倒を見てもらうべきだ、とね。1千戸の全員一致で大手ゼネコンの責任施工が決まりました。安全管理のレベルは格段に上がった。新築時に設計した大手設計事務所もアドバイザーに加わり、情報のやりとりがスムーズになりました」

●合意形成にも手間

 ただ、大手ゼネコンが元請けに入っても、実際の工事をするのは中小の施工業者だ。住民への細やかな対応が求められる。

 足場の組み方もそう。コスト面を考えれば、14階あたりまで通常の足場を組み、それ以上の高さをゴンドラや移動昇降式足場でカバーしたほうが安く上がる。しかし、低層の住民は長期間ベランダの窓を塞がれ、圧迫感を覚える。セキュリティー面でも不安だ。そこで足場は最高5階までとし、それ以上はすべてゴンドラを用いた。「住民説明会で、課題をきちんと説明し、次に積み残さないことが進捗を早める」と橋本氏は言う。

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