ニューハイム池上では、常駐管理人を廃止しシルバー人材センターを活用することで、経費を大幅に削減した(撮影/今村拓馬)
ニューハイム池上では、常駐管理人を廃止しシルバー人材センターを活用することで、経費を大幅に削減した(撮影/今村拓馬)
真如堂マンション。大規模修繕によって受水槽を撤去し、給水管を各戸に直結。受水槽があった場所は駐輪場にし、外からの見通しもよくなった(撮影/楠本涼)
真如堂マンション。大規模修繕によって受水槽を撤去し、給水管を各戸に直結。受水槽があった場所は駐輪場にし、外からの見通しもよくなった(撮影/楠本涼)
合意形成の難しさ(AERA 2017年5月29日号)
合意形成の難しさ(AERA 2017年5月29日号)
マンションの管理、管理組合への不満・トラブル(AERA 2017年5月29日号)
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マンションの老朽化を防ぐための3カ条(AERA 2017年5月29日号)
マンションの老朽化を防ぐための3カ条(AERA 2017年5月29日号)

 日本にマンションが誕生して60年以上。今も年に10万戸ずつ増えている。たが一方で、建物と居住者の「二つの老い」や運営管理への無関心などにより、荒廃するマンションが急増している。何が起きているのか。防ぐ方法はあるのか。AERA 5月29日号では「限界マンション」を大特集。

 建物と住民の「二つの老い」。近い将来、どのマンションも直面する問題だ。マンションの老朽化を防ぐにはどうすればいいのか。荒廃してからでは遅い。組合などを立て直し、管理が行き届く仕組みをつくったマンションを取材した。

*  *  *

 モスグリーンのモダンな外観は、およそ築44年経ったとは見えない。東京都大田区にある13階建てのマンション「ニューハイム池上」(全108戸)。だが、数年前まで限界化の一途をたどる物件だった。

 同マンション管理組合の理事長、山内國弘さん(74)は振り返る。

「外壁は遠くから見てもわかるほどヒビが入り、ベランダの手すりはサビて、給水管もボロボロでした」

 調べると、管理会社のいいなりとなって計画的な修繕ができていなかった。しかも、管理会社が、修繕積立金がたまるごとにこまごまとした工事に使っていた。理事会も十分にチェックをしていなかったのも問題だった。2009年、当時の理事長が外部からコンサルタントを頼み、「自主管理」という改革に乗り出した。

 コンサルタントとして改革に携わった「大田区マンション交流会」会長の高橋明彦さん(61)は言う。

「管理会社任せの委託をやめ、管理組合が直接取引をすることで必要なサービスをできるだけ安く受けられるよう、ありとあらゆる収支の改善を行いました」

●本気で取り組む

 例えば、エレベーター。保守・点検を独立系のエレベーター会社との直接契約に変えることで、年間110万円近くかかっていた費用が3分の1の約38万円まで抑えられた。経費が一番かかっていた管理員業務は、管理員を当初は住み込みで1人雇用していたのをシルバー人材センターから2人派遣することに。年間約280万円から約180万円と100万円近く削減できた。

 削減だけではなく、収入を増やすことにも力を入れた。敷地内を区画整備し駐車場3台分のスペースを確保。その収入だけで年80万円余。敷地内にはジュースの自動販売機を2台置いた。年40万円近いお金が管理組合に入った。

 こうした一つひとつの「改革」が実を結び、年間約1200万円だった修繕積立金は約2200万円と1千万円以上増えた。11年、初の大規模修繕にこぎつけた。外壁はきれいになり、エレベーターは2階部分からしか乗れなかったのが、1階から乗れるように改善できた。

 高橋さんは力を込める。

「本来は管理会社がやるべき仕事を管理組合が自主的に行うのは、それだけの覚悟が必要。しかし本気で取り組めば、マンションは必ず再生できます」

 マンション再生のためのカギを握るのは、「管理組合」だ。渋谷区のマンションも、現理事長への交代が行われた後、修繕積立金額の改定を含むマンション再生の取り組みが行われている。

 富士通総研主席研究員の米山秀隆さんは言う。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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