「以前は『あの人は苦労した』って褒め言葉だったと思うんです。今はちょっと違う気がします。うまくいかないところに価値があるということを描こうと思ったというのはありますね」

 自身もマリという黒と暮らす猫好き。その前に飼っていたハゲという名の黒猫は、漫画の中の宙さんそっくりな猫が連れてきたという。ある雨の日やってきた宙さんは、去勢していない立派な雄猫で、深谷家に毎日夕方来て8時に帰るという生活を1年弱続けたが、ある日ハゲだらけの黒猫を置いて、その後ぱったり姿を見せなくなった。

「それが、2年くらい経ってその家から引っ越すことになり、明日はいよいよ全部引っ越すっていう時に来たんですよ。ただ庭からじっとこっちを20分くらい見ていました。私は『ありがとう。ハゲも連れていくからね』って言って」

 まさに『夜廻り猫』の世界。

「猫には猫の文化があるんだっていうのはその時初めて知りました。心がある感じはするんです。言葉なんかは相当通じるようになりますし。それぞれの猫が自分の気持ちを持っていて、そういうところは人間とあまり変わらないと思いますね」

(ライター・濱野奈美子)

AERA 2017年5月22日号