小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。最新刊・小説『ホライズン』(文藝春秋から4月20日発売)。夫の仕事に伴い南半球で暮らす4人の女性たちの孤独と共感を描いた長編
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。最新刊・小説『ホライズン』(文藝春秋から4月20日発売)。夫の仕事に伴い南半球で暮らす4人の女性たちの孤独と共感を描いた長編

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 イギリスのオックスフォード大学が、「出身国を尋ねたり、お国訛りを真似して冗談を言ったりするのは人種差別的な行動に当たる」と学生に注意喚起したそうです。

 悪気のない些細な事でも、マイノリティーの人がそうした対応を繰り返し経験するうちに、自分は排斥されていると感じ、精神的に追い詰められることがあるのだと。

 これに対し「自由な会話ができなくなる」という批判の声もあるようです。

 するほうに悪気がなくても、されるほうに不安があると、それは小さな攻撃になってしまう。

 繰り返されれば大きなダメージになる、というのもわかります。人種に限らず、自分の持っている要素が誰かの会話で「ちょっとしたネタ」にされるのは、不快なものですよね。

 私はオーストラリアに住んでいますが、レジの店員さんの態度がほかのお客さんに対するよりも冷淡だったりすると、不安になります。もしかして私がアジア系女性で変な英語を喋るから? 自分は「そうじゃないほう」だから、排斥されるのではないかとおびえる気持ちがあるのです。

 でも、もしかしたら店員は単に仕事が嫌いとか、失恋してやけになっていたのかもしれません。あの人は差別するんじゃないかとか、自分は差別されるに違いないと思うのは、私の偏見の表れともいえます。

 差別感情は誰の中にもあるし、ゼロにはできません。同じ言葉でも言い方ひとつで差別的になることがあるし、相手によって受け取り方も違う。何を基準にすればいいか悩ましいですね。

 でも答えは案外シンプルかも。人の不安を想像してみること。もしかして、と。

 いつも機嫌よく、相手によって態度を変えないよう心がけることは、仲間の信頼を得るためにも、多種多様な人が気持ちよく暮らすためにも、大事なことだと思います。

AERA 2017年5月22日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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