●フレグジットの可能性

 ルペン氏は、戦後、政権を分け合ってきた保革2大政党の共和、社会両党の候補者が決選投票に進めないという、米国以上の既成政党離れが起きたフランス大統領選で一定の勢いを見せたが、父ジャンマリ・ルペン氏が初代党首を務めた国民戦線も70年代からある既成政党の一つだ。ルペン親子の存在も党の主張も新しいものではなく、米大統領選でトランプ氏の追い風となった「予想外の隠れ支持者」(宮島氏)は出なかった。

 結局、比較対照の結果、オランド前大統領の側近ながら無所属だったマクロン氏が「落ち着き所だった」(寺島氏)。元経済相の実績から経済の立て直しと雇用創出への期待はあるが、決選投票の投票率は歴史的な低さで政治基盤は強くない。米議会との対立で政策推進に苦しむトランプ大統領を見ると、マクロン氏も前途多難。唯一実績ある経済分野で失業率低下や雇用創出を導けなければ、「かろうじてEUに残ることを決めた」(寺島氏)有権者たちがフレグジットに向かうこともあり得る。

「マクロン氏が本当にフランスやEUを結束させられるのか、まだ幕は開いたばかりだ。そのEUが英国離脱後、どう結束を強めるのか、あるいは緩めるのか。これもまだ分からない」

 と寺島氏。続けて言う。

「英国が独自に世界各国と自由貿易協定を結び、国内を再生する可能性も十分にあり得る」

 多くの変数が絡み合う世界情勢が乱気流を抜ける日はまだ遠い。(編集部・山本大輔)

AERA 2017年5月22日号