ところが、情報技術革命と相関しながら一番進んだのが金融分野だった、と寺島氏は言う。

「マネーゲームが極端に肥大化し、巨大な利益を得て豊かになるごく一部の人と、生活が一向によくならない、その他の大勢の人の間に大きな格差を生んだ。多くをより豊かにし、より幸福にすると信じられていたグローバリズムへの幻滅や焦燥感が急激に見え始めた」

 これが今、フロントランナーとして時代を率いてきた欧米各国に共通して起きている現象だ。グローバリズムに「取り残された人たち」が、いよいよ余裕を失い、格差是正を政治に激しく突きつけている。

●「移民」への責任転嫁

 米でも仏でも、大統領選で既存の枠組みに対するいらだちが表面化し、既成政党への拒絶が起きた。それがトランプ氏やマクロン氏などの「傍流が主流になる選挙」(寺島氏)を引き起こした。だからこそ「仕事を奪う移民を排除する」などの極右的主張が一定の影響力を持つ潜在的な状況も生まれる。

 こうした空気を利用して、勢いをつけたのがルペン氏だ。なぜ負けたのか。

 欧州の移民問題に詳しいお茶の水女子大学の宮島喬名誉教授の分析はこうだ。

「移民排斥と人種差別の党という評を払拭(ふっしょく)しようと『愛国者の党』『弱者の党』へのイメージチェンジを図り、労働者層に浸透し、支持率を上げてきたのは事実。だが、それには限界があった。長らく移民を受け入れてきた国では移民が多すぎると感じる市民でも、失業、犯罪、非行などの責めを移民に転嫁しこれを排斥するルペン氏と国民戦線の主張は、国民の分断であり、レイシズム(人種差別主義)だと感じる」

 ナチス・ドイツの教訓が生み出した多様性の重視といった価値観が深く浸透しており、反既存体制の流れの中にあっても、有権者の選択を米英より慎重にする防波堤になっている。

 宮島氏は、失業率が約10%で高止まりするフランスで、EU離脱後の経済施策を示せなかったことも大きいと話す。

「有権者は、ルペン氏に経済政策があるのか、EUの単一市場を脱退してどこが市場になるのかなどと疑問視し、政権を託せると考えなかった」

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