「ウェブ上の試し読みや口コミを見て、購入するかどうか決めているようです。表紙買いや、『新しい作品を買ってみよう』という冒険が減っているとしたら、漫画好きとしては少しさびしい気もします」(同)

 ネットで知ったおもしろい作品を求めて、書店に足を運ぶ人が増えていると感じる。

「試し読みやバナーを見て、続きが読みたいというお客さまからの問い合わせが増えています。自分たちもウェブをチェックするのが日課になり、『あの作品のバナー、出てたよ』と、書店員同士で情報を共有して、仕入れにつなげています」(同)

 書籍の取次会社・日販の情報サイト「ほんのひきだし」編集部の芝原克也さんは現状をこう分析する。

「電子版と単行本の深刻な食い合いが懸念されたのは黎明期だけで、電子版が単行本を牽引する図式が定着しつつあります。

『親なるもの 断崖』という作品が象徴的です。1992年の日本漫画家協会賞優秀賞受賞作で絶版でしたが、電子版のバナー広告から問い合わせが殺到し、復刻版も売れました」

 以来、試し読みやバナーのコマ広告で売れるタイトルが目立つ。

「美少女と不細工な女子高生が入れ替わる『宇宙を駆けるよだか』(集英社)は1年半前に完結した作品でしたし、人間が食糧にされるショッキングな内容の『食糧人類』(講談社)はウェブ媒体の連載作品でした」(芝原さん)

 旧作に火がつき、埋もれていた作品が売れ出す。デジタルは出し損ではなく、新旧多くの作品に開かれたチャンスだ。

「出版不況のなか、電子版の売り上げもあわせれば、漫画のコンテンツとしての力は衰えていないと感じます」(芝原さん)

●持続可能性には疑問が

 いっぽう、コミック雑誌は岐路に立たされている。かつては雑誌単体では赤字の媒体も多く、雑誌は単行本の宣伝や作品の発表の場で、単行本で収益を上げるビジネスモデルだった。だが、それがいまは成立しない。

「コミックビーム」(KADOKAWA)編集長の岩井好典さんは言う。

「近年の初刷100万部を超えたヒット作、『聖☆おにいさん』や『進撃の巨人』、『テルマエ・ロマエ』といった作品がどの雑誌に掲載されているか、知る人はほとんどいないでしょう」

 たとえば、版元のフラッグシップ誌に載る作品よりマイナー誌に載る作品が売れる状況は、コミック誌が価値を失ったことを意味するのではないか。

「コミックビーム」は創刊21周年となる昨年10月、「読もう!コミックビーム」というプレミアムサービスを開始した。月額は強気の1980円で、連載や単行本の読み放題、漫画家と編集部のニコニコ生放送などを盛り込む。

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