流行のファッションやライフスタイルを取り入れ、女の子の夢や憧れを商品に反映させてきた。応接間のひと部屋から始まったリカちゃんハウスはマンションや一戸建てへ。バブル期には億ションが登場し、最新の家はエレベーター付きだ。しかしその一方で、

「実は人形そのものはほとんど変わっていない」

 とも言う。人形は3回の大きなモデルチェンジを経て現在販売されているのは4代目。4代目は87年の発売以来、既に30年を経ている。

「最初の20年の試行錯誤の時期を経て4代目で落ち着いた。すでに50年の半分以上の期間を占めていて、今後も大きく変えるつもりはありません」(椎葉さん)

●奥ゆかしい表情に魔法

 4代目リカちゃんは「ほぼ完璧。変更の余地がない」。そうした声は複数の関係者や愛好家からも聞かれた。その完璧さはどこから来るのか。黄金比など「美しい形」に潜む美の要素を研究する、東京工芸大学芸術学部准教授の牟田淳さん(48)を訪ねた。美しさの印象は縦横の比率によって変わるという。4代目リカちゃんの顔を測ってみるとほぼ1対1.4。

「よく知られる白銀比です。法隆寺の五重塔やA、B判の紙やノートに見られる比率です」

 さらに女性キャラクターが人気を得るには重要な要件があると牟田さんは言う。

「かわいさだけでなく、美しさも少し加わっていることが重要。小学5年生という少女から大人に向かう年齢設定は、その要件をうまく満たしています」

 リカちゃん人形を製造するリカちゃんキャッスル(LC)のデザイナー広瀬和哉さん(30)は表情に着目する。

「リカちゃんの奥ゆかしい表情に魔法がある」

 と指摘する。愛好家としても知られる広瀬さんが、リカちゃんと出会ったのは3歳のころ。姉と一緒に遊び、小学1年で初めて服を作った。中学生のときには専門の教室に通い、主婦たちに交じって縫製を学んだ。

「リカちゃんを通して、服や髪をスタイリングする楽しさを知りました」

●どんな服も似合う

 文化服装学院卒業後、ドール服のデザイナーになり、3年前、LCにスカウトされ現在に至る。広瀬さんは言う。

「リカちゃんの顔は表情が特定できない。その分、自分が嬉しいときは微笑んでいるように見えるし、悲しいときは一緒に憂えているように見える」

 自分の気持ちにいつも寄り添っているように思えるのだという。ちなみにリカちゃんの目線は常に左を向いている。真正面から見つめられると、子どもが居心地の悪さを感じることがあるため配慮されているといわれている。

 加えて、リカちゃん最大の魅力は「どんな服を着ても似合う」こと。多くの愛好家から聞かれた声だ。これも表情同様、“絶妙なニュートラルさ”が関係している。人形はリアルなタイプかアニメっぽいものに大別されるが、リカちゃんはどちらにも属さない。中間くらいの立ち位置にいるため、逆にどちらにもいけるのだと広瀬さんは言う。

「だからいまどきのリアルな服も、フリフリのドレスを着ても似合うのです」

 どこにも“カテゴライズされない自由”が着せ替えの幅を広げ、「私だけのリカちゃん」と思わせる。半世紀にわたって愛されてきた、リカちゃんマジックの鍵はそこにある。(編集部・石田かおる)

AERA 2017年5月15日号