●夫婦で月5万の生活費

 自分たちでも近所の農家から畑を借りて野菜を栽培しており、移住してからは、肉やチーズ、牛乳以外、買ったことがない。食費は月2万円程度。光熱費やガソリン代、医療費を入れても月の生活費は夫婦で5万円程度だ。1989年に別荘として買った75平方メートル、2階建ての自宅に住んでいるから、家賃もゼロだ。

 ただし、そうした恩恵を享受できるのも、夫婦で積極的に町会に顔を出し、自ら地域に溶け込む努力をしてきたからだ。普段はいろいろなものをもらっているので、大阪に帰ったときは「大阪名物551蓬莱の豚まん」を大量に買って帰り、近所に配ることを忘れない。小学生向けの読み聞かせのボランティアもしている。大阪でステンシルアートの教室を開いていたほど絵を描くのが大好きで、題材になる本を借りに図書館に通ううちに、スタッフから声をかけられたのがきっかけだ。

 お正月にぜんざいを食べる風習など鳥取にきて驚いたことをテーマにした「鳥取にきてびっくりぽん」など、オリジナルの紙芝居を準備する。

「絵という一芸があったことも、早く町に溶け込めた一因だと思います。いまではどんどん声をかけてもらって、老人ホームのボランティアや、町の観光ガイドもやってます。ゆっくり暮らすつもりが、何の用事もないのは月に2日くらい。でも、めっちゃ楽しいですわ」

●ネットワークが大事

 湯梨浜町はCCRC事業を強力に進めるために、昨年12月、民間と協力して「湯梨浜まちづくり会社」を設立した。そこで活躍する新田雅樹さん(66)は東京からの移住者だ。新田さんはCCRCが想定するアクティブシニアそのもの。65歳から年金生活を送ろうとしたが、

「山登りに行っても、温水プールに行っても、高齢者ばかり。自分はまだまだ元気。年をとる順番を待っていては駄目。子ども世代に負担をかけたくないし、このままでは駄目だと思った」

 湯梨浜町が地域おこし協力隊を募集していると知り、単身、湯梨浜町にやってきたのが昨年10月。いまは町有地を利用した住民交流イベントの企画運営や、住民交流施設の運営など、移住者も入りやすい地域コミュニティーづくりに奔走する。移住者は先の森本さんのように積極的な人ばかりではない。

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