夫がセルフビルドで建てたログハウスに、愛犬と暮らす賀川一枝さん。たき火でお酒を飲みながら満天の星を見るのを楽しみに、東京からも友人たちが泊まりに来る(撮影/工藤隆太郎)
夫がセルフビルドで建てたログハウスに、愛犬と暮らす賀川一枝さん。たき火でお酒を飲みながら満天の星を見るのを楽しみに、東京からも友人たちが泊まりに来る(撮影/工藤隆太郎)
サ高住のモデルルームで、山中敏江さん(右から4番目)の説明を聞く交流グループのメンバー。見学後、アンケートに「こんな暮らし方がしたい」という要望をびっしり書いた(撮影/工藤隆太郎)
サ高住のモデルルームで、山中敏江さん(右から4番目)の説明を聞く交流グループのメンバー。見学後、アンケートに「こんな暮らし方がしたい」という要望をびっしり書いた(撮影/工藤隆太郎)

 いい言葉を聞いたことがない。「少子高齢化」「福祉の縮小」「年金消滅」……。私たちの老後は本当に真っ暗なのか。このまま、ひたすら下流老人化を恐れる人生でいいのか。どこかに突破口はあるはずだ。「年を取るのは怖いですか?」――AERA5月15日号は老後の不安に向き合う現場を総力取材。

  移住のハードルを高くするのは、地方=不便という先入観だ。だが、今移住先として主流になりつつあるのは「ほどよく田舎、ほどよく便利」という町。今回はアエラ独自の調査で、そんな町を探してみた。

 注目したのは日本版CCRC(生涯活躍のまち)事業に取り組む自治体。同事業は、元気なうちに移住して趣味や仕事で生き生きと暮らし、介護が必要になっても安心して最期まで暮らせる、というコンセプトで国も後押しする。関東圏で特に熱心な町の一つが山梨県都留市。実際に同市に移住した人たちのケースを取材した。

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 生まれも育ちも東京。料理人として長く働いていた小森谷四郎さん(62)が、山梨県都留市の存在を知ったのは、昨年の春のこと。移住が気になりだして立ち寄った東京駅近くの「生涯活躍のまち 移住促進センター」に、たまたま都留市のブースが出ていた。県東部に位置し、かつては城下町として栄えたこと、人口3万の町にしては珍しく、都留文科大学をはじめ三つの大学を擁することも初めて知った。何より好印象だったのは、JR中央線の大月駅から富士急行線で20分、新宿からだと80分という近さだ。

「移住先は慎重に決めたほうがいい、という人もいますが、私は、物事にはいい面と悪い面があって、悪い面を言い出すとキリがないから、なるべくいい面だけを見ようという考えなんです。だからまずは都留に行ってみて、いいと思ったらそれでいいかなと」(小森谷さん)

 自らも移住者で同市の総務部で地域おこし協力隊として働く山中敏江さん(62)の誘いで現地を数回訪ねた。田舎で人がいないと想像したが、意外に賑わいがある。山中さんは上野に所有していた自宅マンションの売却や都留での不動産探しについても相談にのってくれた。善は急げと自宅マンションを売りに出すと、なんとすぐに売れた。もう進むしかない。

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福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

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