小池一夫(こいけ・かずお)/1936年、秋田県生まれ。作家の山手樹一郎に師事し、漫画原作者として『子連れ狼』などのヒット作多数。「劇画村塾」を主宰し多くのクリエイターを育てたほか、大学でも教える。近著に『ふりまわされない。』(ポプラ社)(写真:小池一夫さん提供)
小池一夫(こいけ・かずお)/1936年、秋田県生まれ。作家の山手樹一郎に師事し、漫画原作者として『子連れ狼』などのヒット作多数。「劇画村塾」を主宰し多くのクリエイターを育てたほか、大学でも教える。近著に『ふりまわされない。』(ポプラ社)(写真:小池一夫さん提供)

 いい言葉を聞いたことがない。「少子高齢化」「福祉の縮小」「年金消滅」……。私たちの老後は本当に真っ暗なのか。このまま、ひたすら下流老人化を恐れる人生でいいのか。どこかに突破口はあるはずだ。「年を取るのは怖いですか?」――AERA5月15日号は老後の不安に向き合う現場を総力取材。

 漫画原作者・作家として数々のヒット作を生み、私塾や大学で多くの後進を育ててきた小池一夫さん(81)。70代で始めたツイッターはフォロワー44万人を超え、今も活発に表現活動を続けている。老いをどのように受け止めているのだろうか。

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 僕は以前、路上で転んで骨折し、救急車で運ばれたことがあるんです。「救急隊員ってこんなに手際がいいんだな~」「救急車の中ってこうなってるんだ!」と感心しながら見ていて、あとで周りの人に「それどころじゃないでしょ!」と言われました。入院生活も驚きと発見の連続。ケガのことよりも、新しい知識の世界が開けていくほうが楽しい。

 長い人生の中では、痛い、つらい、苦しいことはたくさんあるけれど、愚痴っても悲しんでもしょうがない。転んでもタダでは起きないのが楽しく生きる秘訣じゃないですか。

 人は年を取るにつれて経年劣化し、老・病・死は等しく誰にも訪れる。確かにそれは感覚的には恐ろしいことです。

 考えてみれば、人間は祝福されて生まれるけれど、その瞬間から死への運命も決まっている。死ぬこともまた、その祝福の中にあるんです。いつか訪れる死と、そこに向かって訪れる老いを「知性」を持って理解し受け入れることができるのは人間だけ。怖いという感覚に流されず死と老いを知性で受け入れられる人はカッコいいですよね。いつ死ぬかわからないと理解できるからこそ、いま目の前にある生を精一杯生きようと考えられる。感性に流されず、知性を磨くことが大事です。

 どうすればカッコよく老いを受け入れられるか。僕は「上手に若さを卒業する」ことが大切だと思っています。僕の知り合いで、もう結構な年なのに若く見せようといろいろ努力している人がいる。「若い人が私のほうを見てくる」なんて言ってるけど、それは老いを認めず、無理な若づくりが目立っているからだろうと思うんですよ。年を取ることは「進化」なんです。若い人には絶対得られない経験と知識を持っているわけで、それに自信を持って若さを卒業していかないと。

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