失業保険をもらいながら、一刻も早く次の仕事を見つけようとハローワークに通った。が、料理人としてこれまでと同じだけの収入が得られる求人は皆無。キッチン関係の仕事にありつけたとしても給与は半減。それが60歳で直面した現実だった。

「終のすみかは諦めるしかないのか」

 マンション売却を現実的に考え始めた時、ふっと「移住」の2文字が浮かんだ。想像すらしなかったが、独身で、両親もすでに他界していることを考えれば、逆に東京で暮らし続けなければいけない理由もない。新しい土地に行けばまた道は開けるかも。そう思うと、少し心が軽くなった。

●無理なく踏み出せる町

 今回、アエラでは小森谷さんのように、都市に暮らす人がある日「そうだ! 移住しよう」と思い立って、無理なく第二の人生に踏み出せそうな町を探してみた。

 注目したのは、日本版CCRC(生涯活躍のまち)事業に取り組む意向を示している214の自治体だ(都道府県を除く)。CCRC(Continuing Care Retirement Community)とは、アメリカで1970年代から普及した高齢者コミュニティー。元気なうちに移住して、趣味や仕事で生き生きと暮らし、介護が必要になっても安心して最期まで暮らせるのが特徴で、全米で2千近くあると言われる。「日本版」は、首都圏で今後大量に発生すると言われる介護難民の問題と、地方創生の課題を一挙に解決できるとして、政府が推進。自治体の間では移住者の受け入れ競争が始まっている。(編集部・石臥薫子)

AERA 2017年5月15日号から抜粋