いとう・みどり/1969年生まれ。アルベールビル五輪銀メダリスト。現在はフィギュアスケート教室で講師を務める (c)朝日新聞社
いとう・みどり/1969年生まれ。アルベールビル五輪銀メダリスト。現在はフィギュアスケート教室で講師を務める (c)朝日新聞社
1992年2月21日 アルベールビル五輪(フランス・アルベールビル) (c)朝日新聞社
1992年2月21日 アルベールビル五輪(フランス・アルベールビル) (c)朝日新聞社

 国民的スケーター「浅田真央」が現役引退を表明してから、3週間余が過ぎた。愛知県県民栄誉賞を受賞し、ウォーターサーバーのブランドパートナーにも就任。その存在の大きさは日に日に大きくなるばかりだ。

 4月24日に緊急発売されたAERA増刊「浅田真央 すべてを抱きしめたい。」(朝日新聞出版)は、彼女のスケート人生を名シーンと厳選記事で振り返る保存版。巻末では、浅田が引退記者会見で唯一、憧れの人として名前を挙げた伊藤みどりが、同じジャンプをきわめたからこそわかる「浅田真央がトリプルアクセルを跳び続けた理由」について語っている。

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 浅田真央といえば、トリプルアクセル。私が1988年に世界の女子選手で初めて成功させたジャンプで、元は私の代名詞。真央が受け継いで、跳び続けてくれました。本当に誇らしいことです。

 女子にとってトリプルアクセルは、他の誰もやっていない、自分だけがアピールできるジャンプです。他の誰もやらないことに自分だけが挑戦できる。アスリートとして、こんな幸せなことはありません。強いモチベーションを維持できるし、達成感や充実感もひしひしと感じることができます。

 真央にとってもトリプルアクセルは「自分らしくあるために必要なもの」だったと思います。トリプルアクセルを決めることが、イコール自分のべストを尽くすこと。その戦い方こそが、真央の必勝法でした。

 でも、いまのルールでは女子はトリプルアクセルがなくても勝てる。むしろ「3回転+3回転」の連続ジャンプをきれいに決めればトリプルアクセルはいらない、というのが「勝ち方のセオリー」になっています。トリプルアクセルは8.5点で、「3回転ルッツ+3回転トウループ」は10.3点ですから。現世界女王のエフゲニア・メドベジェワ(ロシア)も、トリプルアクセルなしで世界最高点を塗り替えました。女子にとっては難易度のわりに得点が低い。だから誰もやろうとしないんです。

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