駅前広場を囲む歩道を埋め尽くした聴衆が一斉に振るのは日の丸の小旗。君が代をうたう集団が盛り上がり、報道陣に「マスゴミ!」などとヤジを飛ばし、大声で特定の民族に対する差別的な罵声を繰り返す。政権与党の選挙戦が差別主義者たちの「ヘイトデモ」と見まごう。前出の秘書が嘆く「今の自民党を映し出す風景」である。

 自民党本部によると、選挙戦最終日に秋葉原を選ぶのは2012年12月の衆院選からという。

「その直前の党総裁選で秋葉原を街頭演説の場に選んだところ、とても反応がよかった。安倍さんが訴えた『日本を取り戻す』というキャッチコピーも評判となりました。秋葉原は安倍政権にとって象徴的な場所でもあるんです」(自民党本部担当者)

 アニメやネットの聖地でもある秋葉原を埋め尽くす日の丸の波は、何かを「取り戻した」ものではなく、新たな地平を開いたかのようにも見える。

 集団的自衛権の行使を容認する安保関連法を成立させ、「共謀罪」成立に王手をかける。沖縄の新基地建設にためらいはなく、教育の場でも教育勅語を学校の教材として使用することを容認したり、銃剣道を認めたりと驚くようなことが続く。
 こうした動きの背景に見えるのが、日本会議、神道政治連盟などの宗教右派勢力だ。両団体ともに超党派の議員連盟をつくり、安倍首相をはじめ閣僚のほとんどがそのどちらかに(あるいは両方に)加入している。宗教右派の影響力について様々な見方があるが、結果として意に沿った政権運営が進められてきたことは間違いない。

 宗教右派を取り込み、いや、取り込まれ、日の丸を打ち振れば「愛国」だと考えているネトウヨをもマーケットとして考えるのか。安倍政権は“その先の右”へと走り続ける。(ジャーナリスト・安田浩一)

AERA 2017年5月1-8日合併号