どうしていいかわからない時に、どうすればいいかわかる人間にはどうすればなれるか (※写真はイメージ)
どうしていいかわからない時に、どうすればいいかわかる人間にはどうすればなれるか (※写真はイメージ)

 思想家・武道家の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、哲学的視点からアプローチします。

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 ある医療系総合大学で理事を務めている。そこの入学式の歓迎講演というものを仰せつかった。期待に胸膨らませて参列した新入生には申し訳ないけれど、いささか苦い話をした。

 これから訪れる超高齢化社会で新入生が卒業後現場でまず直面するのは「限りある医療資源をどう分配するか?」という問いである。機械的に均等分配するだけの余裕はもうない。何らかの基準に基づき選別をしなければならない。誰を先に治療するか、誰に機材や薬品を使用するか。その優先順位を決定しなければならない。

 一番簡単なのは市場原理に丸投げすることである。医療資源を「商品」、患者を「消費者」と考えれば、一番高い値をつけたものがそれを手に入れる。合理的だ。「医療は自動車や家と同じ高額商品である。欲しければ金を持ってこい」というロジックに効果的に反論できる人が今どれほどいるだろうか。

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内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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