なぜかそれを、いつもことあるごとに思い出して、あれくだらなかったな、って。そのたびに、「マルサの女」のテーマ曲が頭の中で流れて、あぁ、また伊丹さんの映画見たいなってよく思っていました。

 小さい頃は、よくテレビで流れていたのが、確か「マルサの女」や「ミンボーの女」で、よく見ていたんですが、自分があらためてもう一回全部見直してみたいなと思って、ちょうどDVDボックスが出たあたりに、20代の半ば頃だったんですが、見て。そのとき、大人になってと言いますか、しっかり触れる伊丹さんの映画体験だったんですが、「タンポポ」を見て、なんておもしろいんだ、こんなにおもしろいんだ、っていうことを痛感して、そこから伊丹さんブームが自分の中で訪れ、エッセイを読んだり、映画を全部見たり。で、ちょっとしたあとに伊丹さんの『伊丹十三の本』という本が出て、それを読んだり、「13の顔を持つ男」というDVDを買って、見たりしておりました。こんなにすごい人なんだっていうのを、てっきり映画監督だけだと思っていたんですが、本当にいろんな活動をされていることをそこで知って、すごくおもしろいなと思ったし、かっこいいなぁと思いました。

 ちょっと話が長くなって申し訳ないんですが、自分は中学1年生の頃から演劇と音楽を始めて、高校3年生ぐらいに文章を書ける人間になりたいと思い、それぞれ勝手に活動を始めました。音楽と演技は学校の中で始めて、それがだんだんと仕事になり、そして文章は大人になってから始めて、それもだんだん仕事になりました。その中で、芝居の現場に行くと「音楽の人でしょ」って言われて、うんうん、間違ってない。そして音楽の現場に行くと「芝居の人でしょ」って言われて。どの現場に行っても、なんていうか、あぶれてしまう感覚というか、自分の居場所というものがないなというふうにずっと思っていました。

 それに加えて文章まで始めてしまったので、どこへ行っても「一つに絞らないの?」とか、「何がいちばんやりたいの?」とか言っていただいたんですが、個人的には小さい頃から、それこそ植木等さんやいろんな人の活動を見ていて、僕が小さい頃に憧れていた人は、あんなにいろんなことをやっているのに、なぜこんなにみんな、一つのものに絞ろう、絞ったほうが絶対にいい、って言うんだろう、もちろん二足のわらじのように適当にやってたんではだめだと思うんですが、どの仕事も本当に大好きで、すごく好きだなと思っていたら、あと、これしかできないなって思っていたら、だんだんと仕事になっていった、そういう感覚がありまして。なんだかすごくさみしい思いをしていました。

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