●遺伝子検査の活用法

 過去の分析結果では「社会性」の分野で、自己分析では「高い」のに、遺伝子解析の結果をもとにした分析だと「低い」と診断されることがあったという。

「自分が思う性格と他人からの評価が大きくずれていると、それがストレスになり、心身症につながる可能性さえある。いずれはこの検査がそういった可能性を減らしたり、その人にとってより適切な部署や仕事をマッチングする助けになればいいと考えています」(宮部さん)

 ただ、現段階では、遺伝子検査をこのような形で活用することを歓迎する専門家は少ない。

 例えば肥満遺伝子について。特定の遺伝子多型を持つグループが持たないグループに比べて糖質や脂質代謝が苦手な「傾向」にあるという研究成果はある。だが、藤田保健衛生大学で遺伝子や脳科学を研究する宮川剛教授はこう語る。

「統計学的には意味のある『差』がありますが、個人の状態を特定することができるほどの差ではない」

 遺伝子と性格の相関性を示すデータはさらに「弱い」と宮川教授。一部の遺伝子多型ではなく、数百カ所の遺伝子データを組み合わせたスコアを見て、ある性格とのつながりを推定することはできるというが、個人の性格を正しく特定する根拠としては薄い。遺伝子「性格」検査の結果が自分に当てはまるかどうかは、現段階では「占い」レベルとみたほうがよさそうなのだ。

 ある遺伝子検査会社は、検査結果をもとに食品会社と提携し、「糖質で太りやすい方」「脂質で太りやすい方」向けの弁当を提供していた。栄養成分表示を見ると、「糖質で太りやすい」用の弁当の炭水化物量は16.9グラムと、「脂質で太りやすい」用の13.4グラムよりも多い。

 担当者の説明はこうだった。

「(おかずに)糖質の燃焼をサポートしてくれるビタミンB1が多く含まれていることから、おすすめしています」

 宮川教授は遺伝子検査を、「体質や生活習慣を見直すきっかけになればいい」とも語る。

 高い料金を払って遺伝子データを確認するか、カロリー制限をして体重を減らすか。利用者は見極める目を持たなければならない。

AERA 2017年4月24日号

(編集部 福井洋平,市岡ひかり

著者プロフィールを見る
福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

福井洋平の記事一覧はこちら