●行動を変えるきっかけ

 記者(福井)は冒頭の検査を慶應義塾大学薬学部附属薬局の片隅にある「検体測定室」で受けた。検体測定室は14年から一般の薬局などに設置できるようになった施設で、血液のほか唾液の簡易検査なども受けられる。

 医療従事者ではなく自分自身で血液や唾液を採るというのが原則だ。

 血液からはHbA1cのほか、動脈硬化や生活習慣病につながる「中性脂肪」などの脂質量や、肝機能障害のリスクを示すガンマGTPなどの数値がわかる。唾液検査では、虫歯になりやすいかどうか、歯茎の健康状態はどうかといったことが把握できる。

 慶應大薬学部の山浦克典教授(社会薬学)は言う。

「数値をもとにしたアドバイスは医療行為なのでできないのですが、基準値を超えたら医師にかかりましょう、と言うことはできます」

 記者は中性脂肪が「参考基準値」を超え、歯についてはほとんどの項目が「悪い」と出た。

「一般論ですが、口腔(こうくう)内の環境を乱れたままにしておくと高齢になったときに食事がうまくとれず、体力が落ちる。口腔内を整えることで誤嚥防止にもつながります」(山浦教授)

 確かに。多忙を理由に歯磨きが非常に雑になっているという自覚がある。わかっていても、数字で示されるとズシンと響く。これから毎日、歯間ブラシをすることにしようと固く決意した──。こんなふうに「行動を変化させる」ことが簡易検査の意義だと山浦教授は言う。

 次々と誕生する簡易検査は、血液や唾液を使ったものに留まらない。スマートフォンやそれに連動する機器が進化したこともあり、体重をはかってアプリで管理、スマホのカメラを使ってストレス指数をチェック、スマホに顕微鏡をつけて精子の動きを確認するといったサービスが続々誕生している。

「検査ブーム」を後押ししたのは13年に閣議決定された「日本再興戦略」。膨れ上がる医療費の削減を一つの目的に、健康の自己管理「セルフメディケーション」の推進がうたわれた。ヘルスケア産業は少子高齢化の進む日本における最後のフロンティアと目され、多くの企業が参入していると話すのは、保健事業の支援ビジネスを手がけるミナケアの山本雄士社長だ。

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