そもそも転勤とは、本当に必要な制度なのか。転勤政策について研究する武石恵美子・法政大学教授は首をかしげる。先の調査で企業側の転勤の目的のトップは「社員の人材育成」だが、

「私たちの調査では従業員自身は転勤で能力が上がった実感は少なかった。転勤は企業側も大きなコストがかかるもの。まずは転勤が本当に必要なのか社内で検証し、必要だと判断したなら、転勤対象の従業員をきちんと支援することが重要です」

●ワンオペで心身疲労

 外資系金融会社に勤める女性(41)のケースは、会社が支援した好例だ。女性は2年前、夫の海外単身赴任で「ワンオペ地獄」に陥った。当時子どもは1歳。九州出張も日帰りで、心身ともに綱渡りの毎日だった。数カ月後、疲労の限界で千葉の実家に引っ越したが、今度は通勤時間が負担に。それならば、といつか行きたいと考えていた仙台にある本社への転勤を希望した。

 会社側は女性が子連れ単身赴任する初のケースとして配慮し、半年前には内示を出し、保育所入所がスムーズに進むよう、転勤先の借り上げ社宅の契約も2カ月早めた。女性は肉体的・精神的に余裕を持って仕事に取り組めるようになったという。

「定年までの20年を考えたとき、転勤先でマネジメント力を上げたかった。会社の早めの支援がとてもありがたかった」

 多様性が重要視される社会。さまざまな事情を抱えていても、配慮や支援があれば転勤できる人はいる。労使ともに満足のいく転勤制度を考える時期に来ている。(編集部・深澤友紀)

AERA 2017年4月17日号