「ダルデンヌ的」としか表現できない世界観を持つとされる兄弟監督。その世界観の核心は何なのか (※写真はイメージ)
「ダルデンヌ的」としか表現できない世界観を持つとされる兄弟監督。その世界観の核心は何なのか (※写真はイメージ)

「ダルデンヌ的」としか表現できない世界観を持つとされる兄弟監督の新作が公開中だ。その世界観の核心は何なのか。

 海外メディアの映画評では「とてもダルデンヌ的」と形容され、日本のマスコミ試写が終われば「やっぱりダルデンヌだねー」という声がもれる。彼らの作品を見続けていると、確かに「ダルデンヌ的」としか表現できない世界がそこにはあることに気付く。

 ジャン=ピエール(65)とリュック(63)の兄弟監督。2016年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された「午後8時の訪問者」は、若き医師ジェニーのもとを訪れた少女が翌日遺体で発見されたことから物語が始まる。ジェニーは前夜、ちょっとした理由からドアを開けなかった。もしあの時、受け入れていたら──。

●周縁から中心がわかる

 後悔に突き動かされ、ジェニーは自ら調査に乗り出す。監督としての30年のキャリアのなかでも、最もミステリー要素が強い作品だ。リュックは言う。

「使命感とは真逆の、自分には起こるはずがないという現実に直面した人物の物語を描きたかった。ジェニーには、医師としても一人の人間としても罪悪感がある。彼女の調査の目的は犯人を見つけることではなく、自分がとった行動をどうにかして償いたいという思いなんです」

 ジェニーの診療所を訪れた後で行方不明になった少女はアフリカ系。ほかにも、決して裕福とは言えない層の人々が、次々とスクリーンに現れる。現在のヨーロッパ社会のありように思いを巡らせずにはいられない。2人が描くのは、いつだって社会の「周縁」にいる人々だ。

「周縁にいる人々を撮ることで、中心で何が起こっているのか分かる。それは自然現象なのか? いや、社会的な問題であることは明らかです」(リュック)

 舞台は、ベルギーのリエージュ近郊の工業地帯。1990年代後半以降、すべての作品を生まれ育ったこの町で撮ってきた。50年ほど前、ビストロや映画館が立ち並ぶ町は、活気にあふれていた。「人々はみな町に愛着があった」と2人は振り返る。しかし今は、

「ドラッグに溺れる若者や失業者が多く、町に賑やかさはない。私たちは、すべてが壊れ、バラバラになっていく町を目の当たりにしたんです」(リュック)

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