その愚かな選択を振りかざし、メイ首相は新しく有利な交渉をEUとできるのかというと、そう甘くはないでしょう。英国のような先進国でも、合理的な選択をしなくなる可能性があることを、私たちは今回のことから学ぶことになりそうです。

 唯一、この英国の選択が大きな意味を持つ可能性があるとするなら、今年行われるフランスとドイツの選挙結果次第で、欧州統合に亀裂が入ったときでしょう。仮に亀裂が生じるような結果になった場合、英国はむしろ正しい選択をした、という評価になるかもしれません。いずれにせよ、2017年はEUにとっても求心力を高められるかの正念場に来ています。

 日英同盟以来、日英は特殊な関係でした。日本の対英直接投資額は米国に次ぐ世界2位ですし、英国に進出している企業数は1千社近くにのぼります。今後、日本は欧州のどこに拠点を求めていくのかを考えていかなければなりませんが、EUとのFTA交渉が進んでいないことからも、日本は大きなハンディを持つことになります。地政学的な変化が起きているのに、過去に固執して新しい危機に対応できないとすれば、そのツケは計り知れない負の遺産になるはずです。

AERA 2017年4月17日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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