PC落としてこっそり残業も(※写真はイメージ)
PC落としてこっそり残業も(※写真はイメージ)

 沈まぬはずの“電機の巨艦”が1兆円超の巨額損失の渦に飲み込まれようとしている。原因は原発事業の失敗だ。成長期や昭和のニッポンを力強く牽引し、明日は今日より豊かな生活をもたらした名門企業で、一体何が起こったのか。そのとき社員や関係者は何を見て、どう感じたのか。そして何が元凶だったのか。AERA 2017年4月17日号では「苦境の東芝」を大特集。

 事業所に来た日に敷かれた真っ赤な絨毯(じゅうたん)。あれが何かの始まりだったのか――。関係者が証言する東芝の“変調”とは。

●「社長専用に赤じゅうたん」(府中事業所現役インフラ系社員/男性60代)

 社長就任直後に、西田(厚聰)さんが府中事業所に来た日のことをよく覚えています。前日のミーティングで、彼が歩く当日のルートの説明があり、そこに赤じゅうたんを敷きました。その上にさらにビニールを敷き、従業員は避けて歩くよう言われました。

 高校卒業後に入社した当時は下請けを入れて1万人、うち正社員が7千人と言われていました。2000年頃から下請けが増え、今は1万人のうち正社員は3千人を切ったと言われています。製造は下請けに任せ、東芝社員は管理者側になってしまった。下請けに十分な仕事ができるか、正直疑問です。待遇もよくないため入れ替わりが激しく、一から仕事を教えても意味がありません。経験で蓄積される技術や勘が失われているように思います。経営者はいつから現場を見なくなったのか。

●「PC落としてこっそり残業」(府中事業所元技術系出向社員/男性(40代)2014~16年在籍)

 2014年頃、テレビなど一部の部門で事業や工場の縮小が始まり、府中事業所にいる派遣社員を削減し、他工場の正社員・現場社員を府中に異動させていた。社員でも事業が違えば初心者になり、製造・検査現場で出荷遅延などが発生していた。

 15年の不正会計発覚後、事務関係の派遣社員をさらに削減した。残業の抑制も厳しくなったが業務量は多く、こっそり残業する人が増えた。勤務時間はPCのオンオフで管理されるため、主務以上はデスクトップの電源を落とし、支給されているノートPCで仕事を続けていた。水曜日の1時間を業務改善活動に充てねばならず、仕事を中断してその「打ち合わせ」が行われることもあった。本来の業務を阻害していた。

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