男の嫉妬は陰にこもる。まさに東芝のトップ人事の混迷をみていると、「財界」という自らの名声やプライドをくすぐるポストへの執着が会社経営を揺るがしたと思わざるを得ない。

 臨時株主総会の決定を受け、東芝は半導体事業を分社化し、その過半の株式を売却する。その後の東芝は水処理、鉄道などの社会インフラ事業、海外の原子力事業をのぞくエネルギー事業、車載用半導体などの電子デバイス事業が大きな柱になる。

 家電事業は、すでにテレビやパソコンは子会社化、白物家電は中国企業に売却した。消費者向け製品から重電製品までを製造販売する「総合電機メーカー」の姿とは様変わりだ。

 3月14日に発表された「新生東芝」の姿は、20年3月期に売上高が4兆2千億円、営業利益は2100億円になる見通しだ。過去最高の売り上げを記録した08年3月期の売上高7兆6681億円、営業利益2381億円に比べれば、海外の原子力事業や半導体部門がなくなることなどで売り上げは大きく減少する。

●20世紀の東芝へ逆戻り

 若手社員に「原子力も半導体もなくなって大丈夫でしょうか」と問われた幹部の一人はこう答えたという。

「海外の原子力事業はWHの買収後に加わったもの。売却されるNAND(ナンド)型フラッシュメモリーなども同じ頃から成長した分野だ。結局、20年ほど前に戻った形だなあ」

 売上高が最高だった08年3月期を見ると増益は社会インフラ部門だけで、他は減益。WHの派手な買収や半導体への巨額投資をした割には利益を生んではいなかったのだ。

 東芝の過去最高益はバブル時の90年3月期。4兆2520億円の売上高で3159億円の利益を稼ぎ出した。西田時代に一見輝いていた東芝も、実は最高益の更新を果たせていない。

 今の東芝は、派手で見かけはいいが内実が伴わなかったこの十数年の姿から、まじめで堅実な「20世紀までの東芝」に戻ろうとしているかのようだ。

 東芝が20年前の姿に戻り、再び輝けるのかどうか。

 米のSF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のようにいったん過去に連れていかれ、再び現代に戻してくれるブラウン博士(通称ドク)のような存在は東芝に残っているか。人材の流出が相次いでいるという。20年前に東芝にあった社会の信頼感ももはやない。映画のように元に戻れる保証は、ない。(文中敬称略)

(朝日新聞編集委員・安井孝之)

AERA 2017年4月17日号

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安井孝之

安井孝之

1957年生まれ。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京、大阪の経済部で経済記事を書き、2005年に企業経営・経済政策担当の編集委員。17年に朝日新聞社を退職、Gemba Lab株式会社を設立。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

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