●被災した街が前に進む

 自分の魅力に合う曲として、羽生は「パリの散歩道」と、今季のエキシビション「ノッテ・ステラータ」を挙げた。東日本大震災の年、練習拠点を失って各地のアイスショーに出ていた際は、「白鳥の湖」に震災への思いを乗せて滑った。「ノッテ・ステラータ」も原曲はサンサーンス作曲の「白鳥」。白鳥つながりのこのエキシビションを羽生は「被災した街が立ち上がる姿」の続きと位置づけ、

「前回は飛び立つところまで。今回は全てを優しく包み込んで、前に進むイメージを出したい」

 と話している。

 震災からの復興。そんな、羽生ならではの物語を意識しながら滑ることができる曲が合うのかもしれない。

 カナダ・トロントに拠点を移してから、チャイコフスキーの曲を候補に挙げたこともあった。いつか、ドイツ南部の修道院で発見された詩歌集に基づいて作曲されたカンタータ「カルミナ・ブラーナ」をやりたいとも語っていた。恋や酒、若者の怒りや喜びを歌う曲だ。

 いずれにせよ羽生は18年2月、世界王者として平昌五輪のリンクに立つ。(朝日新聞スポーツ部・後藤太輔)

AERA 2017年4月17日号