●韓国大統領選に照準

 むしろ、トランプ米政権が本格始動するにつれて、朝鮮半島の危機は増している。3月末、米メディアは米国防当局者の話として、北朝鮮が北東部・咸鏡北道豊渓里(ハムギョンブクトプンゲリ)にある核実験場付近で6度目の核実験を近く行う可能性が高いと報じた。衛星写真から、昨年9月に実施した前回の10倍以上の威力を持つ核実験も行うことができるとの研究機関の分析もある。

 トランプ政権は、オバマ前政権が北朝鮮に対してとった「戦略的忍耐」は失敗だったと断言し、北朝鮮の関連施設を先制攻撃する「軍事手段」も含めて対北政策を練り直すとしている。北朝鮮は自国メディアを通じて、こうした動きに反発。トランプ氏が、中国の習近平(シーチンピン)国家主席との初の首脳会談で、北朝鮮の核ミサイルを中心議題にしたことに神経をとがらせているのも間違いない。核ミサイル開発の速度を上げる金正恩(キムジョンウン)体制が、次の核実験を行う条件は整っているように見える。

 一方で、「変数」になりそうなのが、5月9日投開票の韓国大統領選だ。4月上旬時点で支持率トップを走る最大野党候補の文在寅(ムンジェイン)氏は、かつて「太陽政策」を牽引(けんいん)した盧大統領の元側近。北朝鮮の核ミサイル開発を批判しているが、同時に南北経済協力事業を再開する意義を説いたり、米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD<サード>)の韓国配備に慎重姿勢を示したりと、朴前政権の対北政策見直しを示唆している。大統領選前に核実験を行えば、文氏に逆風を吹かせることになる。

 北朝鮮は今月初め、平壌で開催されたアジア・サッカー連盟(AFC)の女子アジア・カップ予選に出場する韓国選手団を受け入れた。韓国選手団が北朝鮮の土を踏んだのは実に27年ぶり。北朝鮮の狙いは不明だが、大統領選後の対北政策の変化を期待してとの見方も出ている。(朝日新聞ソウル支局員・武田肇)

AERA 2017年4月17日号