ただ、JR九州は国との協議で、公金である経営安定基金を取り崩し、借金返済や新幹線の施設使用料に充てることが認められた。先行上場のJR3社には見られない特例だ。

 また、赤字路線が多い3島会社が自治体に納める固定資産税と都市計画税を軽減されてきた「3島特例」を、上場後一定期間延長することも承認された。

●しわ寄せは鉄道に

 西日本鉄道の倉富純男社長は、「完全民営化する上場企業として税金を納めながら経営するのが当然の姿ではないか」と指摘。「公金を返さず、税金も払わないなど、上場企業としてありえない。上場に値しないのではないか」(不動産事業で競合する企業)との批判もある。

 宿願を果たして、これまで以上に収益を上げなければならない。そのための方策の一つが鉄道事業の効率化だ。とりわけ人件費を削るため、駅の無人化といったコスト削減を進める。

 短期的には利益をもたらす無人化は一方で、乗客から安心感を奪う。福岡市に住む全盲の公務員の男性(50代)は昨年9月、博多駅に到着したところで、立ち尽くした。乗り換えの手伝いを頼んでいた駅員がいなかったからだ。ホームで困っている様子を見かねた人が案内してくれたが、「転落が頭をよぎった」と振り返る。

「最寄り駅に駅員さんがいる安心感は何物にも代えがたい。(駅員の削減は)行動が制限される気がする」

 在来線だけではない。九州新幹線でも利用者の少ない駅は無人化の対象で、新玉名などの3駅は、新幹線ホームが無人となった。日豊線の特急の一部で、運転士だけで運行するワンマン運転も始めた。地元自治体や住民からの不安、反発の声を無視する形で進む、鉄道のコストカット。安部教授はこう警鐘を鳴らす。

「01年から運輸安全委員会が調査した鉄道事故の約1割はJR九州絡みで不安だ。鉄道事故が起きればブランドイメージも毀損(きそん)する」

 東日本、西日本、東海に加え、九州のJR4社が株式上場して迎えた民営化30年。明るい未来は待っているだろうか。(編集部・野村昌二/朝日新聞記者・岩田智博、土屋亮、角田要)

AERA 2017年4月10日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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