福岡市の中心部にある「大濠公園」。南に10分歩くと、巨大なクレーンが目に入る。九州大学のキャンパスがあった六本松地区だ。その跡地の一部(約2万1千平方メートル)で住居、商業、公共施設を合わせた大規模な再開発が進む。総事業費155億円に上る開発を一手に担うのが、JR九州だ。「生活の匂いがする街にしたい」。青柳俊彦社長はそう意気込む。

 14階建ての分譲マンションはすでに完売、3月からは飲食店も順次オープンする。13階建ての住宅型老人ホームに加え、九大法科大学院や蔦屋書店、飲食店などが入る商業ビルの開業も秋に控える。

 JR九州にとって不動産事業はいまや最大の稼ぎ頭だ。九州各県の県庁所在地の駅を商業ビルに衣替えさせ、安定した収益源を確保。駅ビルで培ったノウハウを生かし、沿線の外への展開も見据える。六本松地区にもJRの駅はない。

●九州は不動産で稼ぐぞ

「九州旅客鉄道株式会社」との正式名ながら、売上高に占める「鉄道収入」の割合は4割にも満たない。JR東日本の山手線や東海の東海道新幹線といったドル箱路線がなく、人口減少が進む九州では、ローカル線はほとんどが不採算だ。「ななつ星」を走らせ豪華寝台列車ブームの先駆けとなるなど話題を呼ぶが、民営化後の87年以降、鉄道事業はずっと赤字続きだ。

 JR北海道、四国と並んで「3島会社」と呼ばれ、民営化時に国から渡された経営安定基金3877億円を運用して、鉄道事業の赤字を埋めてきた。

 力を入れたのは経営の多角化。不動産や小売り、外食、農業などに次々と乗り出した。ほかにも東京・新宿のホテル開業を皮切りに、東京・新橋や那覇にもホテルを建設している。

 関西大学社会安全学部の安部誠治教授(公益事業論)は現状について、「利益のためのなりふり構わない多角化。公益性が求められる鉄道会社の姿勢としては甚だ疑問だ」と批判する。

 鉄道の本業以外へのこうした極端な傾斜は、ひとえに青柳社長ら幹部が言い続けてきた「悲願の(株式)上場」のためだ。JR東日本や東海など3社が民営化後、10年ほどの間に成し遂げた上場。九州が「悲願」を達成したのは29年後の昨年10月のことだ。

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