●限りある命だからこそ家族で過ごす時間大切に

 神奈川県川崎市の小泉由紀子さん(47)は13年前、長女・凪沙ちゃんの妊娠中に羊水が増えすぎて、同センターに転院。検査の結果、凪沙ちゃんは染色体の病気で心臓に大きな穴が開いているのがわかった。手術も難しいと言われたが、結婚して13年目に授かった命を絶対にあきらめたくなかった。

 生後2日目の夜、医師から「状態がよくないので、親子で過ごせるファミリールームに移りませんか」と提案されたときも、命をあきらめたくない思いで断ったが、深夜、再び利用を勧められ、部屋に移ることにした。

 初めて持てた親子3人だけの時間。凪沙ちゃんを抱いていた夫の淳一さん(52)が突然泣き出した。

「この子は本当に幸せなんだろうか」

 由紀子さんは「幸せだよね」と凪沙ちゃんの頭をなでて、2人に寄り添った。点滴や管も外してもらい、翌朝早く、凪沙ちゃんは由紀子さんの腕に抱かれて旅立っていった。

「お医者さんや看護師さんが何度も勧めてくれたから、穏やかに3人で過ごすことができた。今でもあの時間が私たちを支えてくれています」

 神奈川県に住む森武史さん(35)と真実子さん(35)の長男・瀬名君は2年前、生まれてすぐ染色体の病気がわかり、同センターへ転院。長く生きることは難しく、主治医から「家族の時間を大切に」と退院の選択肢も伝えられた。真実子さんは当初、病気なのに退院なんて理解できなかったという。

 だが徐々に三つ上の長女と一緒に家族4人で生活したいと思い始めた。その願いを、同センターの新生児科医たちが尽力して支え、生後2カ月で退院。自宅に連れて帰ったとき、「やっと家族になれた」と思えた。

 瀬名君は5カ月半を生ききった。武史さんと真実子さんは瀬名君を写した6千枚の写真でアルバムをつくり、感謝を込めてNICUへ届けた。

「先生方のおかげで、あの子が生涯で一番長く過ごせたのが自宅でした。家の中や家族の心に残るたくさんの思い出は、瀬名の生きた証しです」

(編集部・深澤友紀)

AERA 2017年4月3日号