福岡の実家近くの産院で里帰り出産した。遼君は泣き声を上げず、ドクターカーで子ども専門の病院へと運ばれた。翌朝、搬送先の病院で聞いた病名は「気管無形成症」。自分で呼吸することが難しく、しかも重度だった。医師の説明は難しかったが、長くは生きられないことだけは理解できた。

 この子には明日が確実に来るかわからない。親として我が子の命をしっかり見守りたいと、毎日NICUへ会いに行った。問題は2歳の長男の預け先だった。感染症のリスクなどから子どもの同伴は認められておらず、面会中は預けなければならない。1カ月間は夫が仕事を休んで交代で面会に行けたが、サポートを続けてくれていた実家の両親からは「亡くなってしまう次男より、長男をもっと大事に」「面会に行かない日をつくりなさい」と言われた。他に預かってくれるママ友も福岡にはいない。里帰り先で自治体の一時保育が利用できるのか、調べる時間もなかった。

 遼君は38日目に旅立った。安原さんは言う。

「当時、面会の間だけでも預かってくれるボランティアがいれば、里帰り先でなかったら……。あの子のためにもっと何かできたかもしれない、と今でも考えてしまうんです」

 NICUをめぐっては、10年ほど前にベッド不足による妊婦のたらいまわしが社会問題化し、その後に整備が進んだ。厚生労働省の「医療施設調査」によると、2008年に2310床だったNICUのベッド数は、14年に3052床と、6年間で約1.3倍に急増した。ただ、新生児科医の数はほぼ横ばいで、医師一人当たりが担当する病床数が増加し、増えたベッドを十分に活用できていないのが現状だ。

 治療が最優先。だから面会時間は限られ、赤ちゃんに会えるのは両親のみ。そうしたNICUが一般的だが、両親を孤立させず、新生児だけでなく家族も支える「ファミリーセンタードケア」を目指す病院も出てきている。その代表が神奈川県立こども医療センターだ。

●家族も医療に参加するファミリーセンタードケア

 ここでは医療者が子どもの現状と将来のリスクの可能性もきちんと伝え、診療方針の決定には家族も参加する。また、NICUは希望すれば24時間面会が可能で、きょうだいも赤ちゃんに会うことができる。家族で宿泊もできる「ファミリールーム」もある。

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