契約社員の男性(30)の元に届いた催促通知。「どうせ支払えない」と数年間、封さえ開けていないものもあった(撮影/写真部・松永卓也)
契約社員の男性(30)の元に届いた催促通知。「どうせ支払えない」と数年間、封さえ開けていないものもあった(撮影/写真部・松永卓也)

 非正規社員、失業、高齢化、病気――。いま、奨学金や住宅ローンなどの借金返済に困る人が増えている。明るい未来を担保にして借金が出来る時代は終わりつつあるのか。AERA 2017年4月3日号では「借金苦からの脱出」を大特集している。

 奨学金の返済が重く、人生設計を変えざるを得ない若者が増えている。背景にあるのは学費の高騰や仕送り額の激減、非正規雇用への就職などだ。

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 学生生活やアルバイトに関する質問に、にこやかに応じていた大学院生の吉川隆さん(仮名、24)の口元が、にわかに緊張した。家族のことを尋ねたからだ。

 一見おしゃれで“意識の高い”、今どきの男子に見える。ただ身なりに人一倍気を使うのも、自分の暮らしぶりを悟られたくないという思いからだと明かす。友人を家に呼ぶのも、昔から苦手だった。

「奨学金を借りられたのは、正直嬉しかったです。それまで自分で人生を選択できたことってほとんどなかったので」

 父は10年ほど前から職を転々とし、現在は無職。母は非正規で働く。生活保護家庭ではなかったが、物心ついてからはずっと「生活していくこと」が優先で、やりたいことは二の次だった。大学進学で親元から離れて自由になれる。初めて感じる解放感だった。

 ただ地方出身のため、進学には学費のほか、家賃や生活費など多額の費用がかかる。独立行政法人「日本学生支援機構」(旧・日本育英会)の奨学金を月約17万円借り、さらに多い時でアルバイトを月20日ほど入れた。留学をしたりサークル活動を満喫したりする友人をうらやましく思うこともあったが「生きる世界が違う」と諦めた。

 そんな生活でも「もっと勉強したい」という思いだけは消えなかった。親からは「現実的な道を選べ」と就職を勧められたが、奨学金を借り続け、大学院進学を決めた。結果、貸与総額は1千万円以上に膨らむ見通しだ。卒業後、月々の返還額は5万円を超える。返還期間は20年だ。

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