久保は今冬、スイスのクラブからベルギーのKAAヘントに移籍。リーグ戦7戦5ゴールと好調ぶりが伝えられていたが、代表では年齢も経験も下から数えたほうが早い、いわば“ぺいぺい”。このゴールで「やっとチームに貢献できた」と安堵したようだ。ただ、初ゴールにも興奮する様子は一切ない。朴訥とした語り口はいつも通り。持ち味の冷静さが大事な試合で生きた、ともいえる。

「(自分のゴールは)うれしいですが、チームが勝てたことが何より。こういう性格なんで、(大事な一戦にも)緊張はなかった。(今後も)ピッチでの結果がすべてなので、そこで何ができるかだと思います」

 一方、長谷部の代役とも言える今野は左MFで先発。52分には勝利を引き寄せる追加点を決めたが、それ以上に光ったのは中盤での精力的な守備と正確なつなぎ、前線への飛び出しだった。

「(ゴールは)久保が絶妙なところにパスを出してくれたおかげ。最後はフリー過ぎて焦っちゃったけど入ってよかった。それよりもとにかく自分の良さである走って相手を潰すことなど、シンプルなプレーを心がけた」

「出来過ぎだし奇跡」

 経験豊富とはいえ当初は想定外の招集に「一体何をすれば……」と戸惑いも見せていたが、プレーは頼もしさに溢れていた。

「やる前は、不安でしたよ。ホントにどうなるかって。普段、一緒にプレーしていない人といきなりやるわけだし、連係もクソもない。ハリルのサッカーだって体感していなかったし、(活躍は)マジでたまたま。出来過ぎだし、奇跡です」

 指揮官が「賭け」と振り返ったGK川島永嗣も含め、久保や今野らの起用策が見事に的中し、狙い通り勝ち点3を手にしたハリルジャパン。だが、不振から評価が急降下する本田や長谷部より年上の34歳のベテランに救われた現状は、必ずしも望ましい状況ではない。28日にホームで臨む最下位のタイ戦(さいたま市)に勝てば、W杯へまた一歩前進できる。だがその裏で本大会を見据えれば、喜んでばかりもいられない現実があることも忘れることはできない。(スポーツライター・栗原正夫)

AERA 2017年4月3日号