「最近では、男性の育児休暇を奨励する会社が増えてきています。そして、転職を考える優秀な人材は、そうした価値観の企業を希望するケースが多いんです。ライフワークバランスという言葉が広まっていますが、ダラダラ仕事をせず、人生全体の充実をバランスよく考えられる人というのは、仕事でも効率よく成果を出していく」

●海外は愛妻家がデフォ

 自身も家事・育児に積極的に参加することで、女性が活躍しやすい会社とはどういう会社か、社会にどんな問題があるのかが明確になってきたという。

「経営者が妻を愛して家庭を大切にできていなければ、人材を大切にする会社にはならないと感じています。これが今後の『理想の企業』のスタンダードになっていくのではないでしょうか」

 海外の愛妻家事情はどうだろう。スイス・ティチーノ州の人文学センター(CIU)研究員で人類学者の三井秀子さんは、「4年以上を過ごした香港やマカオの夫婦のあり方を見ていると夫婦仲は良くて当然なものであるという感覚があり、素直に『奥さん大好き!』な男性たちがいました」という。また、三井さんが大学院時代を過ごした1990年代のシリコンバレーでの愛妻家事情をこう語る。

「その頃のシリコンバレーはスタートアップの最盛期にあり、たとえばヤフー!の創始者のひとり、ジェリー・ヤンさん夫妻のような『同級生カップル』が支え合い活躍する姿は一つの理想の形を成していたように思います」

●同志としての夫婦

 それぞれ活動の分野が違っていたとしてもお互いがあってこそ活躍している夫婦のことを「ハズバンド&ワイフチーム」と呼んでいたという。起業などのいちかばちかの勝負で、共にリスクをかぶるステークホルダーになるという意味での「チーム」で、試練も成功の喜びも失敗の苦しみも共有して支え合うような相棒、同志としての夫婦が多く見られたという。

「そこではそういう『チーム』としてのカップルがむしろ標準だったように思います。もちろんゲイ・レズビアンの『チーム』もたくさん。変化の激しい世界、荒海を共に泳ぐ同志であり相棒でありきょうだいのような関係で、それは『連帯』という言葉が似合うものです。子どもがいるいないにかかわらず、そういった連帯が基礎にある『家族』をつくっている人たちによっても創造される躍動感を、当時のシリコンバレーではとくに強く感じたように思います」

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