改革の成果は早くも表れ、生徒数は下げ止まった。さらには東洋大学に進学できる高大教育連携コース(推薦基準あり)を新設した分、生徒数も増えた。

 東京都立屈指の進学校、西高校(杉並区)は14年の春休みから米国研修を開始した。ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学の学生と交流したり、講義を受けたりする。10日間のプログラムに選抜された40人が参加する。参加費は50万円と高額だが、今年は定員の2倍以上の応募があった。16年からは参加できない学生に向け、日本に招いたハーバード大の大学院生らから5日間の講義を受けるプログラム(参加費5万円)も開始した。宮本久也校長はこう語る。

「生徒の進路選択に海外大学も入ってきている。同じ目標を目指すのではなく、多様なニーズに対応するのが公教育の役割だ」

 地方の公立トップ校からの視察は年間50校を超えるという。

 教育改革は冒頭の桐蔭学園のように、中学受験への影響も大きい。中学受験専門誌「進学レーダー」の井上修編集長は「大学入試改革で一番敏感に反応したのは、首都圏の中学受験を迎えた保護者だ」と指摘し、

「新テストがどんな試験か現段階ではっきりしていないため、受験のない大学付属の学校に人気が集まった。日大豊山など、難易度の低いところでも人気が出ている」

●親も新方式に共感

 冒頭の川妻教諭にはAL入試の説明会での決めゼリフがある。

「お子さんを自分の部下にしたいですか?」

 川妻教諭は言う。

「中学受験を迎える保護者は40歳前後で会社でも管理職になるころ。社会で必要な力も痛感し、旧来型の教育では通用しないことをよくわかっている」

 社会で働く割合が高いこの世代の父親ほど、新たな試験方式に共感する傾向があるという。

 長く続いた東京大学を頂点とする学歴志向。そのただ中を生きてきた現場から上がる、変化を求める声も大きなうねりとなって、既存の序列の仕組みを壊しつつあるといえそうだ。

(編集部・澤田晃宏、教育ジャーナリスト・渡辺敦司

AERA 2017年3月27日号