離婚の事由がない

「『もう夫婦関係は続けていけない』とだけ書かれていました。すぐに妻に理由を聞きましたが、とにかく『離婚したい』の一点張り。今でも明確な離婚の事由は示されていません」

 思い当たる節があるとすれば、義母との関係。過干渉なくらいに家に来る義母とは折り合いが悪く、ある日、ナオトさんの実親をあしざまに言ったことに怒り、怒鳴ったことがあった。

 だが、妻にそれが理由かと問うと「違う」という返答。理由もわからないまま、調停が申し立てられた。家庭裁判所からは円満調停が言い渡され、「面会は月に1回2時間」「監護権は妻とすること」などが決まった。

「離婚の事由もないのに、子を連れて出ていかれて月に1回しか会えなくなるなんて、司法の判断は明らかにおかしい」

 ナオトさんは、親子断絶防止法案の成立を願っているという。

 ただ、同法案には不備が多いとの指摘もある。弁護士の打越さく良さんが言う。

「第8条のように『別居前に子どもの監護権や面会交流の取り決めをせよ』というのは危険な場合もあり一律には言えません。子どもの心身の安全確保のために別居しなければならないときに、事前の話し合いなど無理です。行政の窓口に行って
『事前の取り決めがないなら援助できません』となったら結局避難ができず、子どもにも酷です」

 子連れ別居や離婚の背景には、深刻なDVや虐待がある場合も多く、「子の利益」に照らし当面は別居親との面会交流を認めるべきでないケースもある。

「どのような場合が違法な連れ去りで、監護の継続性や虐待の存否など個別の事情を含めて子の利益を判断できるのは、やはり家庭裁判所。実績のある家庭裁判所の環境改善を図ることが先決です。そもそも、『児童の権利条約』では、子どもの権利の実現のため、国に適切な措置をとる義務を課している。この法案は当事者間に力の非対称性がありうることを無視して、父母に責任を負わせていることが問題です」(打越さん)

 夫婦の別離は、夫、妻の立場それぞれに“真理”がある。ただ、同意なしに子どもを連れていかれた親の苦悩も深い。「救済策」が検討される時期に来ている。(文中カタカナ名は仮名)

(編集部・作田裕史)

AERA 2017年3月20日号