「セミナーなどで特定の年齢までに結婚すべきと説いたり、国や自治体が理想とする価値観や人生プランを盛り込んでくるでしょう。それとは分かりづらい方法で、行政が個人の生活意識にまで介入することに強い懸念を抱いています」

●学校でも家庭教育

 学びというかたちであれば、学生に結婚や出産意識の啓発をすることもできる。実際に高校や大学でライフデザインセミナーを実施している学校もある。前出の婚活・街コン推進議連で事務局長を務める石崎徹衆院議員は「就活の後は婚活」というトレンドをつくっていきたいという。

「価値観を押し付けるのではなく、医学的な情報を踏まえた判断をしてもらえるよう、促していきたいと思っています」(石崎議員)

 一つの例としてあげたのは、文部科学省が発行する高校生用の補助資料。22歳を妊娠しやすさのピークとしたグラフを掲載し、ライフプランを考えることの重要性を訴えているのだ。

 この動きをさらに加速させ、結婚や家族のかたちを変えかねないのは、自民党が今国会で提出を目指す「家庭教育支援法案」と、その先に待ち受ける、個人の尊厳と男女平等を定めた憲法24条の改正だ。24条の改正案では「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」の「のみ」が削除される。また、「家族は、互いに助け合わなければならない」という条項が新設されていることについて、子育てや社会保障費削減の論理的根拠にしたいのではと指摘する識者も多い。

 家庭教育支援法は、家庭での子どもの教育を支援するために、国や自治体、地域住民などの役割を法律で定めるものだが、前出の山口さんは「自治体や地域住民が連携して家庭に介入し、戦時中の『隣組』のような監視体制にならないか心配」と指摘する。また学校や保育所が家庭教育の拠点として新たに加わることも挙げ、「親になるための学びと称して、子どもたちに特定の家族観やジェンダー観が押し付けられる可能性があります」とも話す。

 今回の取材で出会った「婚活」に携わる多くの人が、結婚を選択しない人や、多様な生き方を許容する世界に対して「意識改革が必要」と言い、「婚活」と「少子化対策」を同義で語る姿が気になった。政府の「結婚から子育てまで切れ目ない支援」が、個人の人生の選択に介入してはいないか。これからは、いつも自分の心に問いかけたほうが良さそうだ。

(編集部・竹下郁子)

AERA 2017年3月20日号