●会場の視界を独り占め

 草間人気を支える熱狂的な“ヤヨイスト”とはどんな人たちなのか。プレス内覧会で、オープン初日の国立新美術館前で、彼らを待ち受けた。

 2月22日、開館1時間半前の午前8時半過ぎに一番乗りでやってきたのは、東北地方から夜行バスで駆けつけたという60代の会社員氏だ。

 会場の視界を一瞬だけでも独り占めできる「先頭」の入場にこだわり、2012年に埼玉県立近代美術館で開かれた草間の展覧会「永遠の永遠の永遠」展でも、先頭入場をゲットしたという。

「いまじゃ高くて買えないが、20年以上前に買ったカボチャの版画を1枚、家に飾っていてね。毎日見てると、そこだけ不思議な世界が広がってるんだよ。そんな普通じゃないところが魅力かなぁ。あ、会社に言わずに来たから、名前は教えないよ」

 ちなみに草間作品は会社員氏の言葉の通り、マーケットでも軒並み高騰している。その人気から、「前衛の女王」はいまや「マーケットの女王」とも呼ばれていると聞いた。

 ある美術系フリー編集者によれば、1990年代から国内外美術館での個展が相次いでいることと、香川県・直島の巨大なかぼちゃ作品をはじめ、パブリックアートが多く設置されたことなどが引き金になっているという。

 このフリー編集者は、作品の高騰をこう位置づける。

「草間さんが前衛美術史の注目作家から、美術史の注目作家にステップアップした証拠です」

 開館まで1時間を切ると、いち早く作品を見たいヤヨイストが行列をつくりはじめ、開館直前にはその数が100人以上に膨らんだ。

 その中の一人、草間チックなカラフルファッションに身を包む、都内の大学の法学部に通う女子大学生にも話を聞いた。
「高校時代、美術の教科書で見つけて『これ、なに?』と目がくぎづけになりました。以来、草間作品のトリコです。受験勉強中も机に作品の複製を貼って、ときおり見つめてはエネルギーを注入してました」

次のページ