●オランダで極右躍進

 アムステルダムで不動産関連のコンサルティングの仕事をしているというロクサーヌ・シュルツさん(23)は、オランダの総選挙について、

「ポピュリストが(大陸)欧州でも勝つことができるのかを示す選挙になる」

 と話す。トランプ大統領を生んだ米国民の選択には疑問を感じている。本誌の現地取材に、オランダ総選挙は米大統領選後、欧州の政治リーダーを選ぶ初の選挙として全世界が見守る極めて重要なものだとしたうえで、こう続けた。

「PVVのウィルダース氏が選挙で勝つことはないと考えていたが、現在の選挙予測では支持されているように見える。非常に不安を感じる」

 定数150の下院で現有12議席のPVVは、これまでの各種世論調査でトップの支持率を集めることが多く、一時は30議席をうかがう勢いをみせていたが、ここに来てやや失速。それでも25議席を超える可能性は十分にある。対するルッテ首相率いる中道右派の与党・自由民主党(VVD)は、40の現有議席を25議席程度まで減らす可能性があり、下院第1党の座をPVVに奪われかねない情勢だ。

 28もの政党が入り乱れる今回のオランダ総選挙では、過半数の76議席を超える政党は出ない。仮にPVVが第1党になっても、それ以外の党が連立に消極的なため、極右政権の発足はないと見られている。さらに直前になってVVDが猛追をみせており、最終的には第1党の座を維持すると予測する世論調査も出てきた。いずれにしてもPVVが躍進するのは確実で、自国の「右傾化」を意識するオランダ国民が増えているという。

●独仏でもトランプ流

 こうした世論を意識してか、ルッテ首相が反移民ともとれる意見広告を新聞各紙に掲載するなどして、PVVとの政策距離を縮めてきたこともVVDの猛追を後押ししたようだ。

 欧州の価値観を強く共有してきた同国でも、ブレグジットやトランプ政権発足を背景に、開かれた欧州や移民受け入れに対する潜在的な違和感や反発が、徐々に表面化し始めている。

 特にイスラム教徒を敵視し、イスラム教の聖典「コーラン」の発禁、モスク建設の禁止、イスラム系移民の受け入れ禁止といった、欧州で強くタブー視されてきた非人権的、排他的な発言を繰り返すウィルダース氏に一定の支持が集まる現状が、その危うさを物語る。

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